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防災コラムVol.136

1000年に1度の洪水 そのとき地下鉄は

公開月:2006年5月

間もなく雨の季節を迎えるが、最近の水害の新たな傾向である「地下への浸水」について考えてみたい

地下鉄の浸水被害想定が公表された

突発的な局地的豪雨では、地下鉄の地上出入り口から大量の水が地下に流れ込むことがある。

2009年1月23日に政府の中央防災会議から「荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水被害想定」が公表された。荒川の堤防決壊時における東京都内の浸水域や浸水深については、既に2008年に公表されているが、地下空間における浸水被害の状況について具体的に被害想定をまとめたのはこれが初めてとなる。

被害想定は、まず荒川流域において200年に1度の洪水(3日間の流域平均雨量が約550mm、1947年のカスリーン台風並み)と1000年に1度の洪水(同680mm、1910年の大雨による荒川堤防決壊時並み)の2つのケースを想定し、この洪水の下での堤防決壊地点を東京都北区志茂、足立区千住、墨田区墨田の3ヶ所に設定、さらに水門やポンプ場といった排水施設も機能していない状況でおこなった。

これによると、北区と足立区で決壊した場合には、東京メトロ南北線、千代田線、日比谷線などから氾濫水が流入し、都心方向へ向かう。大手町や銀座などでは地表よりも数時間早く流入し、駅が改札フロアまで水没するほか、赤坂や六本木など標高の高い山の手地域の駅でも、地表は浸水しないにもかかわらず線路が冠水するレベルまで氾濫水が到達するものと予想されている。一方、墨田区で決壊した場合には、都心の駅は浸水する可能性は低いものの、東京メトロ東西線、有楽町線、半蔵門線、都営新宿線のうち主に墨田川の東岸(江東区・墨田区)にあるほとんどの駅が水没するものと想定されている。なお、これらの想定は、トンネルの入口や駅の地上出入口の止水対策を現況と同程度(地表から高さ約1mまで止水板を設置)とした場合であり、このように入口の大部分を塞ぐような止水対策を施した場合には、少なくとも水没状態の駅はなくなるほか、浸水範囲を狭めたり浸水するまでの時間を遅らせることができるとされている。

「数百年に一度の洪水」とは

気象庁HP「異常気象リスクマップ」では、どの程度の雨量が「○○年に1度の大雨」なのかを地域ごとに数値化して公表している。

では、被害想定でモデルとされた「200年に1度」、「1000年に1度」という2つの洪水は過去、都内にどのような被害をもたらしたのだろうか。

200年に1度の洪水でモデルとされたカスリーン台風(1947年9月)は、本州の南海上を北上し房総半島沖を通過、本州南岸に停滞していた秋雨前線を刺激して荒川と利根川の上流域に記録的な大雨をもたらした。台風が通過した9月13日から15日までの総雨量は、荒川水系上流の秩父市(埼玉県)で611.0mm、利根川水系上流の日光市(栃木県)で466.5mmに達した。荒川は鴻巣市や熊谷市(いずれも埼玉県)で既に決壊していたため都内で決壊した地点はなかったが、利根川が大利根町(埼玉県)で決壊、江戸川や中川などの旧利根川の流路に沿って氾濫水が南下し都内数ヶ所で堤防が決壊した。浸水域は足立区、葛飾区、江戸川区などに広がり、浸水家屋は38万棟に上った。

一方、1000年に1度の洪水でモデルとされた1910年8月の洪水も台風の接近によるもので、荒川・隅田川の堤防が各所で決壊し、山手線の東側に広がる下町低地のほとんどが浸水した。堤防決壊箇所は7000ヶ所以上、浸水家屋は51万棟に上ったとされている。なお、現在の荒川のうち都内を流れる部分は、この1910年の洪水を契機として掘削され、1930年に完成した放水路であり、現在の隅田川が荒川の旧流路にあたる。

まず身近な水害に対処しよう

荒川・隅田川流域では、カスリーン台風以降60年以上、本流の堤防が決壊するような大規模な氾濫は起きていない。しかし、この間に堤防の内側の土地利用は大きく変わった。低湿で農地や干潟が広がっていた下町低地は、堤防の整備や埋め立てによって住宅地へと変貌した。より強固な堤防の建設や遊水地・放水路の整備といった施策によって水害を被る回数こそ減ったが、ひとたび大規模な氾濫が発生した時、このような土地利用の変化によって、被害はなお一層深刻になることが予想される。

他方、都心では限られた土地の高度利用を図るため地下への利用を進めた結果、地下の浸水という従来の水害では想定されていなかった被害が出ることが明らかになってきた。冒頭に述べた地下鉄の浸水想定も、この点を踏まえてまとめられたものである。しかし、地下の浸水については、数百年に一度という大規模な洪水を待たずとも最近増加傾向にある短時間の集中豪雨によって、既にその危険性が指摘されている。排水できなくなった雨水が地上から流れ込んで地下を水没させ、逃げ遅れた人が溺死する事故が過去にも発生しているからである。自治体等によって整備されつつあるハザードマップも、地表面における氾濫水の流れ方や浸水範囲は示しているものの、地下空間の浸水状況までは記載されていない。よって、自らの感覚でその危険性を認識することが重要になってくる。

梅雨、そして台風と雨の季節を迎え、水害のおそれが高まる時期が近づいてきた。まずは通勤・通学経路や家の周辺など自分の日常生活圏において、洪水時にどのような危険性があるかを考えてみよう。そして、特に地下であればどう避難すべきかなどについて、気象庁の「局地的大雨から身を守るために」を参考に考えておきたい。事前に認識しておくことは、実際の洪水時に適切・迅速な行動を取る上で非常に有益である。そして、被害想定は数百年に一度であっても、それを参考に今、自分の目前に迫っている洪水に対処することが何よりも大切なのである。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

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