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防災インタビューVol.116

地震火災 ~来たるべき大地震に備えて~

放送月:2015年5月
公開月:2015年12月

廣井 悠 氏

名古屋大学減災連携研究センター准教授

地震火災 その①「揺れに伴う火災」

「揺れに伴う火災」としては、東日本大震災の時には150件前後発生しましたが、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が発生した時には、特に名古屋や大阪などの大都市圏では、この「揺れに伴う火災」による被害が非常に大きいだろうと考えられています。

この「揺れに伴う火災」というのは、建物が倒れて出火して、そこから延焼して、人が逃げ惑うという形の、地震火災の中でも非常に分かりやすいクラシカルな火災です。実はこの「揺れに伴う火災」として非常に有名なのが関東大震災の火災で、墨田区の被服廠跡では4万人前後の方が亡くなったといわれるような、非常に大規模な人的被害を伴う火災でした。

関東大震災から今年で92年たちましたが、昔に比べて、われわれの住んでいる市街地は、火災に対して安全になっているのではないかと思っている方も多いと思います。しかしながら最近私は、それはちょっと違うのではないかと思っています。その理由を「出火」「延焼」「避難」「消防」の4点から少しまとめてみたいと思います。

まず1つめの「出火」については、関東大震災が起こった92年前と比べて、現在は火を使う回数も増えていますし、建物の密度も増えていますので、出火件数は関東大震災の時よりもずっと増えるだろうと考えられています。関東大震災の時は134件の出火点だったのですが、それを超える何百件台の後半ぐらいの出火が首都直下地震の時には運が悪いと起きてしまうだろうと言われています。もちろん地震火災の出火というのは、冬はストーブなどをみんなが使っているので非常に多くなりますし、夕方の5時から6時ぐらいは夜ご飯の支度をしているので出火も多くなります。被害の大きさは、季節や時間帯にもよるので、何とも言えないのですが、関東大震災の時よりも出火は、密度高く、数が多くなるだろうというふうに考えられています。

それからもう1つが「延焼」なのですが、市街地を見てみると関東大震災の時は木造住宅が連なっていて、いかにも火災に弱そうな町ではあるのですが、実は今の市街地も延焼速度という点では、そんなに変わらないかもしれません。東京消防庁が風速、湿度、市街地の建ぺい率などの数字を入れると延焼速度が出る「延焼速度式」というものを作っておりまして、それによると延焼速度は約2/3~1/2になります。これはつまり、火の回りが2/3~1/2ぐらい遅くなる程度しか、われわれの住んでいる市街地は防火性能改善していないということです。そもそも火災の延焼速度というのはそんなに速いわけではなく、関東大震災の際に一番速い延焼速度でも、1時間に600~700mぐらいでした。健常者の歩く速度は1時間に4~6kmですので、十分歩いて逃げられる速さです。それがもし半分の速度になって、1時間に600mが300mになったとしても、そう大差はありません。津波などとは違って、おじいちゃんでもおばあちゃんでも追いつかれるわけではありませんので、人的被害ということにおいては、関東大震災の時代とあまり変わらないのではないかと思っています。

都市部での地震火災

都市部での大地震が起こった際には、出火点は多分多くなるでしょうし、延焼速度が半分になる可能性はありますが、避難を考えるとそう大差ないかもしれないと思います。昔の木造住宅などに比べて燃えにくい住宅が多くなっていますが、耐火建築物といっても実際に燃えない建物ということではありません。誤解している方も多いのですが、耐火建築物というのは「火災が起きても60分間つぶれない建物」ということなんです。つまり60分間火災に耐えることができる建物なので、その60分間を使って避難しましょうというのが耐火建築物です。準耐火建物になると耐火時間が45分になります。ですので、耐火といっても、燃えない建物なのではなく、ブツブツ燃える建物ということで、燃えることは変わりありません。ホテルニュージャパンや川治プリンスホテルなども火災で燃えています。構造自体は燃えないのですが、中にあるものが燃えてしまうので、燃えることは変わりないわけです。われわれが考えている市街地火災のイメージは、密集市街地からどんどんじわじわ燃えていくイメージですが、場合によってはビル火災なども起きる可能性はあると思います。

現在、東日本大震災のデータを分析しているのですが、「揺れに伴う火災」の大体4割が4階以上で起きていました。このように中高層建築物の下層階から出火して、防火設備や消化設備が揺れによって壊れている状態では、スプリンクラーも使えませんし、十分に煙も遮断できなくなった建物の中で人が逃げ惑う可能性があるわけです。

火災学会で、東日本大震災の時の仙台の中高層建物の防火設備と消化設備をサンプリング調査したところ、スプリンクラーも半分ぐらい壊れていましたし、防火扉などの防火設備も3分の1ぐらい壊れていました。特に高層建物は、もっと厳しい基準で建てられているので、非常に区画の面積が狭くいろいろなところに防火扉がありますので、それが壊れて火災で逃げ惑う事態になっても、大地震の時には消防も助けに来られませんので、東日本大震災の時には起きなかったようなリスクが発生するかもしれないと言われています。今の高層ビルの中には、一つの町や村くらいの人が入っていますので、もしそういう事態が起こったらどのように逃げるのか、また帰宅困難者になったら、逃げればいいのか、滞留したらいいのかも分からなくなってしまいますので、非常に混乱する可能性があると言えそうです。

「揺れに伴う火災」の避難と消防

地震火災の特徴というのは、同時多発火災で、一度にいろいろな所で火災が発生します。そうしますと消防団や消防士たちの容量を上回ってしまって、全ての火災に対応することができなくなってしまいます。平常時の火災ですと1か所で火災が起きたら、いろいろな所から消防士が来てみんなで火を消しますが、大地震の際には火災は1か所ではないので、本当に重要な火災にしか対応できなくなってしまいます。そういった意味では消防士を呼んでも来ない可能性があるわけです。従って、いくら消防技術が昔に比べて上がっていても、消防士が来なければそのまま放任火災になってしまいますから、結局消防という点では、関東大震災と場所によってはそんなに変わらない可能性もあります。そういった意味では、関東大震災に比べて出火は多いし、延焼の速度もそんなに変わりない、消防も場合によっては同時多発火災対応なので、その当時とそんなに変わらない可能性があるということです。

それから最後に「避難」についても、地震火災からの避難というのは、「逃げ惑い避難」と言われるように、津波のように火災が襲ってきて、走って逃げたけれど追いつかれてしまうというような形ではなく、同時多発火災なので、いろいろな所で火災が起きて、火災に阻まれて逃げ場所を失って亡くなってしまうというタイプの被害です。関東大震災の時に被服廠跡で起こった悲劇は、まさにその形の典型ですが、そういった避難をした経験がある人はそんなにはいないと思います。火災の中での避難の仕方は非常に重要なのですが、現代人の火災に対する嗅覚というか逃げ方は、江戸時代や明治、大正時代に比べて、その能力は相当落ちていると思われます。

火災時の避難に関する非常に典型的な例が、世界三大大火に見られます。1600年代に「明暦の大火」という火災がありまして、江戸の町で、町人の方々を中心に約10万人が亡くなっています。全く同じ時期にロンドンの市街をなめ尽くすような「ロンドン大火」という火災がありましたが、そこで亡くなった人の数は4、5人です。もう一つはローマ大火なのですが、その世界の三大大火のうち二つの「ロンドン大火」と「明暦の大火」の死者が全然違うのはなぜなのかというと、私は恐らく、避難の仕方に問題があったのではないかと思っています。その当時、江戸幕府は基本的に攻め込まれないための都市をつくり、町の周りにぐるっとカタツムリのように堀を回して、大きな橋を造ると大群で攻め込まれてしまうので、基本的に橋を小さくして海上交通で移動するというような、一気に攻められない町をつくりました。一気に攻められない町というのは、逆に言えば、急に外に逃げ出せない町でもあるわけで、人的被害の差も大きかったのだと思います。ただ、文献を調べてみると、当時のロンドンは、身分の低い人を計上しないというルールがあったらしく、本当に犠牲者が5人ぐらいなのかどうかは分からないのですが、桁が全然違いますので、やはり江戸の町が避難しにくかったということは間違いないと思います。

いずれにせよ都市の中の避難性能、避難ができるかどうかというのが、ダイレクトに地震火災の人的被害に影響しますので、その点でも今の現代人の避難能力、地震火災に対する避難能力というのは落ちているような気がします。このような面から見ても、関東大震災の時と比べて、現代は地震火災に関する安全性は改善していない気がします。出火は増えている、延焼はちょっとましになっている、消防はちょっとましになっている、けれど限界があり、避難はむしろ悪くなっているのではないかということです。それで、首都直下地震の被害想定では、非常に多くの人的被害が計算されており、なかなか予断を許さない状況ではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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