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防災インタビューVol.58

都市計画と町づくり ~都市計画的防災の観点から防災を考える~

放送月:2010年10月
公開月:2011年4月

加藤 孝明 氏

東京大学生産技術研究所准教授

プロフィール

東京大学生産技術研究所の准教授をしています。専門は都市計画と町づくりで「地域安全システム学」と呼んでいます。これは簡単に言うと、町の在り方、町の形、町に住む人々、そういったものをより良くしていって、しかもそれを体系化することで町を安全にしていこう、安全でしかも幸せに暮らせるような町をつくっていきたいという思いを込めて、この名前を付けました。

現在は、住民の方といろいろ話し合いながら将来の町の姿を考えたり、あるいは短期的な対策として防災、自然災害、水害や地震、犯罪など、安全に関わるようなことについて行政とも話し合いをしながら、少しでも町が変わるような動きをつくり出そうという活動をしています。これは東京大学と市民の方が一緒になってやっています。また小中学校で話をしたり、町会の方々と話し合いをしながら活動を進めていますので、学生たちからは「ちょっと出歩き過ぎだな」と言われています。このように、大学で教える傍ら専門的な分野の講義や市民活動などを、幅広くやっています。

防災を考えるときの基本

私の専門はもともと都市計画ですので、都市全体がいわば研究の対象になっています。都市の中には建物もあれば道路もあるし、ライフラインといったネットワークもあります。しかし一番重要なのは、そこで暮らす人間だと思います。ですから、防災を考えるときの一番の基本は「都市で暮らす人間を理解することである」というふうに思っています。この「都市で暮らす人間を理解する」というときには、2つポイントがあると思います。

1つは人間の目です。人間の目は、都市を見るときと自然環境を見るときとでは、かなり違っています。これは非常に重要なことです。それを知るために、学生や市民講座の参加者に「別の町に引っ越して暮らすことになったら、どういう所に住みたいか」という質問をしています。すると、普通はまず1つは便利な所、2つ目は自分のお金で買える所、経済性です。それから3つ目としては快適性、住環境のいい所、日当たりとかそういったものが出てきます。ただ、この中で安全性というのはほとんど出てきません。

では逆に「山の中でどこかにテントを張ろうと思ったときに、どういう条件の場所を選びますか?」と質問すると、まず危なくない広い所というような答えが出てきます。そこに、もう少し長期的、1週間、10日、1カ月住むことになると、と付け加えると、水が近い所とか、煮炊きしなければいけないので、まきが取れる場所とか、ちょっと森の近くとか、多分そういう所を選ぶと思います。

このように考えると、自然環境を見るときには、まず安全性、2番目に自然とどう共生して生きていくのか、この2つの視点があるわけです。本来、人間が生き物として持っている環境を見る目というのは、自然環境を見るときの目だと思います。安全性と自然との共生というのを第一に考える、これが基本のはずなのに、都市を見るときになると、この2つの視点はどこかに行ってしまっています。

ここでポイントとしては、実際に「安全」について考えていないわけではなく、実は考えていると思います。どう考えているかというと、都市を見るときには「都市には安全性というものは無条件で既に与えられているものだ」という前提に立っているので、安全性というのは出てこないわけです。都市が本当に安全であれば、安全性について考える必要がないというのは非常に幸せなことなので、それでもいいのですが、実はそうではありません。安全ではないけれど安全だと思っているところにギャップがあって、これが今の防災問題を引き起こしているのではないかと思います。

安全であるのは当たり前だと思っているので、その当たり前だと思っていることを無理に修正するのではなく、「そういうものだ」という前提に立って、防災対策や町を安全にしていく活動を進めていける仕組みをつくっていく必要があります。そのためには社会全体で、このことを考えていかなければいけないと思っています。

人間が防災対策を見る目

人間が環境を見る目が、都市と自然環境では全然違うという話をしましたが、そのパート2として、人間が災害を見る、あるいは防災対策を見る目というものについて話をしたいと思います。

例えば「明日の天気は曇り一時雨、雨の降る確率30%」と言ったら傘を持って出掛けますか? これはよく市民講座で皆さんに聞くのですが、持って行く人と持って行かない人に分かれます。でも持っていく人のほうが多いです。それは繰り返し経験をしているので、傘を忘れてしまったとか、傘だけ持っていてちょっと重かったというような経験を積み重ねて、持って行くと判断する人と持って行かないと判断する人に分かれていくわけです。

ところが「あなたの家の壊れる確率は30%ですよ」というと、どう感じますか? 30%、壊れる家というのはかなり古い家だと思うのです。多分、住んでいて「自分の家は危ないかもしれないな」と思ってはいるけれど、30%と言われると「70%も壊れない」と思ってしまいます。つまり、経験していないことに対しては、都合よく考えてしまう、というのが人間というものなのです。これは酒飲みと肝機能の話と一緒で、酒を飲めば肝機能に悪い影響があると分かっていても飲んでしまうというのと同じで、根拠はないけれども自分だけは大丈夫と思ってしまうということです。もちろん知識はあるけれども、合理的に判断して、合理的な行動に移っていかないというのも、人間の本質的な特性だと思います。

「消防署のほうから来た消火器売り」と「区役所のほうから来た無料耐震診断」

ちょっと前に「消防署のほうから来ました」と言って、消火器を売る詐欺事件がありましたが、最近では「区役所のほうから来ました無料耐震診断です」というと怖がられるという話があります。

私も以前、耐震診断や耐震補強に関するアンケート調査を、東京大学の名前でやったことがあります。アンケートには電話番号も書いてありました。アンケートを配り終えて大学に戻ったら「本当に東京大学ですか?」と電話がありました。信用してもらえず、「東京大学のほうから来たんじゃないか?」としきりに言われました。これは人間というよりも、むしろ社会の問題なのかもしれないですが、社会の信頼感がないために、その結果、何か悪い方向に行ってしまうこともあります。本来ならば消火器をわざわざ売りに来てくれるのは、ありがたいことです。消火器は重いですし、なかなかそういう機会がないと入れ替えるチャンスもありません。無料耐震診断にしても、やってもらって安心できれば、これは社会にとってはプラスなはずなのに、結局、信頼感が社会全体でないがために、結果、全体が不幸な状態に動いてしまうことがあります。

防災意識のある住民は、自分から行政に問い合わせたりして能動的に動きますが、大半の方は受動的ですので、行動を起こすには、やはり外からの刺激が必要で、その刺激も信頼感の裏付けがないと結果的には前に進みません。防災対策を進めていくためにも、やはり信頼感というのが1つ非常に重要な要素になると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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