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防災コラムVol.234

日本の局地風

公開月:2006年9月

2011年7月21日

ある地域に限定して吹き荒れる局地風。被害の軽減に向けた新しい動きも見られるようになりつつある。

台風から離れた地域で強風による被害が

津山城跡から見た中国山地。奥の山々から手前の平地に向かって広戸風が吹き下りる。(岡山県津山市、筆者撮影)

今年(2011年)の5月下旬、日本列島に季節外れの台風2号が接近した。フィリピンの東で発生した台風2号は発達し、暴風域を伴いながら南西諸島に沿うように北上し、九州の沿岸に接近した。最終的には四国沖で温帯低気圧に変わったが、台風接近前から本州の南岸に停滞していた梅雨前線の影響も加わり、各地で5月としては記録的な大雨や強風を観測した。
この台風が四国沖に接近した5月29日、台風の中心から200km以上離れた岡山県北部の津山盆地(津山市や隣接する奈義町など)では、転倒による歩行者の負傷や家屋の倒壊などの被害をもたらすような強風に見舞われた。この日の奈義町の最大瞬間風速は40.1m/sに達し、観測史上1位の記録を更新するほどの強風であった。しかし、同じ岡山県内でも台風の中心により近い、南部に位置する岡山市の最大瞬間風速は22.6m/sであった。
なぜこの日、台風の中心から遠く離れた津山盆地に被害をもたらすような強風が吹いたのだろうか。この謎を解く鍵が、今回のコラムのテーマである「局地風」である。

地域の人々の生活になじみ深い局地風

清川だしを利用した風力発電施設。現在、庄内平野には8基の風車が発電を行っている。(山形県庄内町、筆者撮影)

阪神タイガースの球団歌として有名な「六甲おろし」、上州(現在の群馬県)名物の「からっ風」などの名前はご存知の方も多いかと思われるが、これらが局地風の地域ごとの名称である。
「局地風」とは字のごとく、ある特定の地域に吹く強風のことである。従って、季節風や台風による暴風のような地球・大陸レベルの風とは成因がまったく違う。「六甲おろし」は六甲山地から大阪湾に向かって吹き下りる強風、「からっ風」は冬の北西季節風が越後山脈を越えて関東平野に吹き下りる際の乾燥した強風のことである。また、冒頭に紹介した津山盆地の局地風は「広戸風(ひろとかぜ)」と呼ばれ、中国山地から津山盆地に向かって吹き下りる強風の名称である。また、山脈を越えて吹き下りた風が風下側の気温を上昇させる「フェーン現象」の「フェーン」もアルプス山麓に吹き下りる局地風の名称である。
全国に分布する局地風の名称を調べてみると、先の六甲おろしのような「○○おろし」や清川だし(山形県)のような「○○だし」が多いことに気付く(○○には強風の吹く地域名称が入る)。「おろし」は漢字では「颪」と書き、文字通り山地を「吹き下りる風」を示したものである。また、「だし」は「出し」と書き、狭い谷間から広い平野や盆地へ風が吹き出す様子を示したものである。このように、局地風の発生には、風上側に山地や峡谷があるといった地形条件が大きな要因となることが多い。
局地風は強風による被害をもたらすがゆえに恐れられているが、その一方で、この強風を生かした例もある。
例えば、六甲おろしの吹く兵庫県の阪神地域は、灘に代表されるように日本酒の一大生産地である。この背景としては、日本酒に欠かせない原料である水を六甲山地の良質かつ豊富な湧水から得たことが大きいが、それと同時に、六甲おろしの冷たい強風が雑菌の繁殖を抑え、酒の品質を高めたとされている。また、最近はクリーンエネルギーとして風力発電が注目されているが、山形県の日本海沿岸に位置する庄内平野では、最上川の谷間から平野へ向かって吹き出す清川だしの強風を利用した風力発電が行われている。

局地風を予報する試みも

局地風は、これまで触れてきたようにその地域の地形が大きく関わっているが、それに加えてある特定の天候条件の下で吹くことも明らかになってきた。例えば、冒頭に紹介した津山盆地の広戸風は、長年の発生事例を検証すると、四国や本州の南海上を台風が東寄りに進んだ時に多く発生することが分かってきた。今回の広戸風の発生についても、四国沖を台風が北東に進むというまさに発生条件に適合した事例であったことが分かる。
しかし、局地風発生の可能性の検討は経験則によるところが大きく、事前の予報は現在でも非常に難しい。そのような中で、全国の気象台で唯一、詳細な局地風の予報を行っているのが松山地方気象台(愛媛県)である。
四国山地から瀬戸内海へ向けて吹き下りる「やまじ風」が発生し、JR予讃線がこの強風のために運転を見合わせるなどの影響を受ける愛媛県四国中央市では、地元の松山地方気象台が発表する気象情報の中で、「四国中央市ではやまじ風の吹くおそれがあります」という一文を載せた上で、強風に注意すべき時間帯や予想される最大風速などを掲載する気象情報が2010年4月から始まった。これは、全国の局地風の影響を受ける地域としては初の試みである。予報開始からまだ一年あまりであるが、これまでのところ予報せずに強風が発生してしまった「空振り」はなく、引き続き予報の精度向上に向けた取り組みが進められている。狭い範囲には限られるものの、ひとたび発生すると大きな影響をもたらす局地風の被害軽減に寄与する情報提供の一つとして、同じように局地風の被害に悩む他地域への応用も含めて注目される動きである。

(文:レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

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