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防災コラムVol.181

2009年の新型インフルエンザ情報と対応を振り返る

公開月:2006年7月

一連の新型インフルエンザ対策を振り返ってみると、世界保健機関(WHO)の発表をめぐる迷走が、対策を講じるうえでの判断を困難にさせたといえるのではないだろうか。

それはメキシコからはじまった

新型インフルエンザの国内感染者が認められるや否や、マスクや消毒液が売り切れた。

2009年4月24日、メキシコで豚インフルエンザによる多数の感染事例が発生したというニュースが世界中に配信され、日本国内では国際空港・海港での検疫が始まり、大混雑となった。同月28日になって、WHOはフェーズ4を発表。日本国内の商店には、マスクや消毒液を買い求める人々が殺到し、すぐに品薄状態となった。
5月中旬、海外からの帰国者以外で初めての感染者が確認され、さらに集団感染をしていたことが判明し、国内はパニックの様相を呈した。感染者が兵庫県の高校生であったため、当該の高校や交流のあった学校は次々と休校となり、シーズンだった修学旅行にも延期や中止が相次ぎ、出張を見合わせる企業も出た。また、感染者が確認された高校は対応に追われ、無情にも抗議の電話が殺到した。

WHOフェーズ6の発表を巡る混乱と迷走

世界50カ国に感染が拡大する中、2009年5月下旬になっても、WHOは最大警戒レベルであるフェーズ6をなかなか発表しなかった。「南半球での広がりをみて判断する」「ウイルスの毒性を考慮する」など、新しい指標や条件をメディアの前で発言するにとどめる慎重な姿勢。これにより、フェーズ情報を判断基準として感染の拡大防止策を講じようとしていた各機関は、いつどうやって防止策を発動すべきか、判断しにくい状況に陥った。
6月11日、WHOはついにフェーズ6を発表した。しかし、国境封鎖や渡航制限などの対応を取らないようにと呼びかけたうえ、「弱毒性でも大きな被害になることがある」「今後、強毒性に変異する可能性があるので注視が必要」などとも発言し、危機としての結論を先延ばしにしているようにも受け取れた。

フェーズを元にした対策の死角が露呈

WHOが新型インフルエンザによる累積死者数を表した世界地図。

国の想定にも先進的な企業の対策にも、WHOや厚生労働省が発表するフェーズ情報の監視が組み込まれていた。フェーズ情報が発表されたら、感染者が国内に流入するのを防止するための検閲を開始するといったことや、流入が防げなかった場合のマスクや消毒液、ワクチンなどを備蓄することについてなどである。しかしながら、WHOは、なかなかフェーズ情報を発表しなかった。厚生労働省は、2009年5月の時点で「新型インフルエンザ対応方針」を変更し、フェーズ6に伴う対応や現状で実施している空港検閲などを縮小・終了すると発表。フェーズを元に対策をしていた各企業は、厚生労働省の発表を受けて、新型インフルエンザ発生後に講じていた対応を解除するのか、または続行するべきか、それぞれが独自に検討・判断をしなければならない状況となった。

危機管理情報はどこにあった?

勝手な意見かもしれないが、振り返ってみると、国やWHO、マスメディアは、企業や自治体などの危機管理担当者が扱いやすい形にまとめた情報を発表してくれたとはいえない。国別や経緯で情報をまとめたり、数値データをまとめてグラフ化したりといったことも、早々にしてはいなかった。それどころかメディアの報道は、死亡率が上がったとか特定の症例の死者が増えたというセンセーショナルな内容に終始し、国民に誤解や混乱を与えてしまった面もある。
また、企業や自治体の危機管理担当者にとって、対策の方針を転換する根拠の情報を外部に求める計画が機能しなかったことは、大きな負担となった。対応の根拠となるような情報を用意するために、自ら国立感染症研究所感染症情報センターや都道府県のサイトなどから情報を収集し、社内の情報を集めて分析するといった体制を、新たに構築せざるを得ない状況に追い込まれたといってもいいだろう。

想定が外れることを想定できるか

2009年に発生した新型インフルエンザは、想定どおりでも想定を越えるものでもなかった。想定を下回るものだったのは幸いだったが、想定を下回ったと確信を持てたのはいつだっただろうか。確信を持てないまま、延々と体制を維持したのではないだろうか。想定を下回ったと判断する基準を持った組織はどれほどあっただろうか。後になって「想定とは違った」「対応は過剰だった」「WHOは製薬会社と癒着しているのでは?」などということは簡単だが、その時、「今の対応は過剰すぎだ」と判断するのは難しい。厚生労働省が2009年5月に対応方針を変えた際が、対応を見直すひとつのタイミングだったのかもしれない。とはいえ、その後も新型インフルエンザの感染は世界各国に広がり、8月には国内で初めての死者が発生したわけであり、危機管理担当者が「念のため」対応を継続したとしても責められるものではない。ただし、長期戦になったことで危機管理担当者だけが疲弊し、我々の新型インフルエンザへの意識は、潜在的に慣れを持ってしまっていたのではなかったかと、改めて問いたいところである。
なお、2010年5月時点でもWHOはフェーズ6としており、国内においてもスーパーや飲食店の店頭、ビルの入り口などに消毒液を設置しているところがあることから、未だ体制を維持している企業が多く存在することが推測される。

本当に必要な情報は何か?

今回の教訓のひとつに、「事例の少ない災害では外部からの情報をあてにはできない」ということがある。また、私たち自身が本当に必要としていた情報は、「実際に新型インフルエンザが発生してから、家族、または自社内に被害が出てからでないとわからなかった」のではないだろうか。こう考えると、今回の経験は貴重だったといえる。自らの家庭や組織にとって必要な情報は何かを考え、その情報を得るには、外部からの発表に頼るだけでなく自らの手で収集することも重要だ。そして、WHOのフェーズ情報以外に自分なりのルールを持ち、冷静な判断と対応ができるよう心がけたい。
「危機」とは突然に発生するものであり、ケースもさまざまなため、事前の計画だけでは対応しきれないものだ。その時々の危機に合わせて柔軟な対応と取り組みができるような手順を用意しておくことこそが、実践的な「危機管理」なのではないだろうか。

(文・レスキューナウ危機管理センター 大脇桂)

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