1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災コラム
  5. 進むテロ対策~鉄道輸送から
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災コラムVol.176

進むテロ対策~鉄道輸送から

公開月:2010年1月

地下鉄サリン事件から2010年で15年。事件の舞台となった鉄道のテロ対策とそれを取り巻く法体系を考えてみよう。

通勤電車内で有毒ガス散布

今から15年前の1995年3月20日朝、通勤ラッシュで混み合う東京・営団地下鉄(現東京メトロ)の車内で猛毒のサリンが散布された地下鉄サリン事件。死者13人、負傷者数6000人以上という大惨事をもたらしたこの事件は、大都市において民間人に対し化学兵器が使用されたテロ事件として、国内外に大きな衝撃をもたらすことになった。
こうした大都市において鉄道を標的としたテロ事件は、2004年3月スペインのマドリードで通勤列車の爆破、2005年7月イギリスのロンドンで地下鉄の爆破など、世界各国で度々発生しており、2010年3月29日にもロシアのモスクワの地下鉄でテロとみられる連続爆発事故で百数十人の死傷者が確認されている。
鉄道、しかも通勤電車という人々の日常生活に欠かせない場で起こった地下鉄サリン事件。それ以降、鉄道をはじめとした輸送機関は、それまで想定されていなかった事件を受けてさまざまな施策を講じた。
今回のコラムでは、利用者である私たちから見えるテロ対策の一端を紹介していきたい。

地下鉄サリン事件後の鉄道各社のテロ対策

中身が見えるように透明に変わったゴミ箱(東海道新幹線・新大阪駅)

地下鉄サリン事件後、事件の直接の被害を受けた営団地下鉄をはじめ、JRや大手私鉄などの鉄道会社では、駅に設置されていたゴミ箱やコインロッカーの使用を一斉に停止した。また、「駅構内または車内等で不審物・不審者を発見した場合は、直ちにお近くの駅係員または乗務員にお知らせ下さい」という、車内放送や車内・駅構内における掲示など、今や地方の中小私鉄に至るまでごく当たり前のように見聞きするようになった注意喚起も、この地下鉄サリン事件が契機となっている。
こうしたテロ対策は、2001年9月のニューヨーク同時多発テロ事件などを受けてさらに強化された。駅のゴミ箱やコインロッカーについては、警備体制の強化もあって次第に使用が再開されるようになったが、例えばゴミ箱については周囲からも見えやすいように透明なものが使用されるようになっている。また、東海道・山陽新幹線の新型車両(N700系)では各ドア付近に防犯カメラが設置されたことが話題となったが、このように、駅構内のみならず列車内にも防犯カメラが設置されるようになってきた。この他、警察官や警備員による駅構内や車内の巡回、不審な荷物のチェックといったような施策がテロ対策の一環として行われている。

車内に持ち込めない「危険物」とは?

新幹線車内では各座席に不審物への注意を促すステッカーが貼られている(東海道・山陽新幹線・N700系車内)

「不審物に注意」と並んで、もう一つ駅や車内における注意喚起として、「駅や車内への危険物の持ち込みは法令で禁止されています」という一文を目にしたことも多いかと思う。
それでは、そもそも車内に持ち込んではならない「危険物」とは何なのだろうか。
鉄道に関するさまざまな法体系の中で、安全かつ円滑な鉄道輸送を図るべく、事業者と利用者が守るべきルールについて定めた「鉄道営業法」という法律がある。この鉄道営業法の下で国土交通省の省令として定められている「鉄道運輸規定」があり、その第二十三条に車内への持ち込みが禁止されている物品の一覧がある。以下、この一覧を紹介する(原文は文語のため口語に直し、一部加筆修正している)。

  • 爆発、自然発火、腐食などで他に危害を及ぼすおそれのある物品
  • 酒、油など引火しやすい物品(旅行中に使用する少量のものを除く)
  • 暖炉、コンロ(懐中で使用するものを除く)
  • 死体
  • 動物(持ち込みを許可された小動物などを除く)
  • 不潔、臭気等で同乗者に迷惑を及ぼすおそれのある物品
  • 座席や通路を塞いだり車両を損壊させたりするおそれのある物品

これを見ると、持ち込み禁止物の具体例やどのぐらいの量まで持ち込み可能なのかといった細かい規定はなく、意外と抽象的であることが分かる。その一方で、爆発物について爆薬や実弾については、例えば「銃用の火薬は1kgまで持ち込み可能」といったように、個数や重量について細かく規定されているのも特徴的だ。この点については、法令が制定された昭和17年が戦時中であったという時代背景を踏まえると想像がつく。
しかし、法令の制定から70年近くが経過する中で、私たちの生活の中に入り込んできた薬剤類(洗剤を含む)も増え、その使い方によっては危険物となり得る時代となった。それにより犯罪が多様化していることを踏まえると、抽象的な規定となっている部分については検討する必要があるのではないだろうか。

私たちは普段から、不審物に「触れない」、「嗅がない」、「動かさない」の3点を肝に銘じておくべきである。そして、速やかに最寄りの駅員や乗務員などに知らせるようにしていくことを心がけたい。

(文:レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

copyright © レスキューナウ 記事の無断転用を禁じます。

会社概要 | 個人情報保護方針