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防災コラムVol.172

改めて考えたい「備えあれば憂いなし」

公開月:2010年1月

17年振りの大津波警報発表-果たして「過大予測」だったのか

チリで巨大地震発生、太平洋一円に津波襲来

津波警報が発表された海岸を警戒する消防関係者(千葉県御宿町)

2010年2月27日03:34頃(日本時間15:34頃)、南米チリ中部沿岸でM8.6(気象庁発表)の巨大地震が発生した。この地震と津波により、3月3日現在、チリ国内で700人超の死者をはじめ一部地域で壊滅的被害が出ており、被害の全容が今後明らかになるにつれて被害の規模は更に拡大する恐れがある。

チリは地震国としても知られるが、その所以ともなった1960年5月発生のチリ地震は有史以来最大規模とされるMw9.5、太平洋一円に広がった津波は発生から約22時間半後に日本沿岸に襲来し、三陸地方を中心に死者142人という大惨事をもたらしている。

今回の地震でもチリをはじめ、太平洋一円で津波が観測された。ハワイの太平洋津波警報センター(PTWC)は地震発生直後にチリ・ペルーに津波警報を出した後、4時間後には対象地域を環太平洋沿岸広域に拡大。これを受けてハワイでは全島で警戒態勢に入り、島中に16年ぶりとされる警戒サイレンが鳴らされた。フィリピンでも沿岸地域で住民が高台などに一時避難するなど、太平洋沿岸地域で一時緊張が高まった。

結果的にはハワイで最大1.8mの津波を観測、ハワイ全島では大きな被害は確認されていないが、チリでは最大10m程度の津波が襲った可能性があるとされているほか、チリ沖のロビンソン・クルーソー島でも死者を確認。人的被害こそ確認されていないが、仏領ポリネシアやトンガでも2m超の津波が観測されているとの情報もある。

17年振りの大津波警報発表

気象庁は地震発生後いち早く第1報を伝えるとともに、日本への津波の影響調査を開始。同日夜の段階で最大1m前後の津波可能性を予測、さらに翌日朝には最大3m程度の津波可能性との分析結果がまとまり、28日09:33、三陸地方を中心に大津波警報、その他太平洋沿岸など広域に津波警報・注意報を発表した。大津波警報発表は1993年7月12日に発生し、奥尻島などに甚大な被害をもたらした北海道南西沖地震以来、実に17年振りとなった。

津波警報発表を受け、自治体や漁業関係者、公共交通関係者を中心に各種対応に追われた。政府も28日08:30、危機管理センターに官邸対策室を設置し情報収集を進め、テレビやラジオもNHKが一時全波を報道に切り替えるなど、特別体制での報道を行っている。

警報発表時点での津波の到達予想時刻は、伊豆・小笠原諸島と北海道太平洋沿岸で13:00頃とされていたが、南鳥島で12:43に10cm、北海道根室市花咲で13:47に30cmの第1波が観測された後、北海道から沖縄までの広域で津波を観測。観測点での最大波は岩手県久慈港と高知県須崎港で1.2m、宮城県仙台港と鹿児島県志布志港で1.1mと、結果的に予測と同等ないし低い値となった。各地の状況を受け、大津波警報は同日19:01に警報に切り替えられたほか、順次警報・注意報も引き下げられ、最終的には3月1日10:15までにすべて解除となっている。なお、PTWCの津波警報は28日18:40にすべて解除されていた。

異例の「過大評価」

沿岸の道路案内表示でも津波への警戒を呼びかけていた(宮崎県宮崎市)

今回の津波では、潮位上昇により宮城県気仙沼市、塩竃(しおがま)市、南三陸町と静岡県下田市で住宅浸水が50件以上確認されているが、人的被害は確認されておらず、表面的な影響は最小限に抑えられたということができるだろう。ただし、三陸地方を中心に漁具や養殖用いかだなどの流出などが多数に及んでおり、被害状況がまとまるにつれ水産業を中心に今後経済損失による地域への影響が懸念される。

一方、警報発表から注意報全面解除まで丸1日を要したことで、避難指示・勧告が長引いたことや、航行中のフェリーが長時間接岸できない状態となったり多数の鉄道路線が一時運転見合わせたりするなど、社会生活への影響も大きかった。気象庁は1日の記者会見で、予測が少し過大だったとして陳謝した。また、中井防災担当相は2日の記者会見で、警戒レベルの弾力化を考慮するものと思われる、津波警報のあり方の見直しを示唆している。

確かに今回、遠隔地津波の予測の難しさがポイントとなっているが、普段からの防災教育などで教わる一刻を争う印象の強い津波警報とは異なり、比較的時間に余裕がある遠隔地津波への対応については、警報発表のタイミングや、それに伴う避難指示・勧告や各種交通機関他の動きについて一定の考慮の余地があるとも考えられよう。

津波の恐ろしさを改めて考えたい

今回、一部自治体で避難対応などに混乱が生じたり、住民側も実際の避難行動になかなか結びつかない、挙句には海辺に見物に出かけたり、沖に出たサーファーが陸に上がらなかった-などの報道もなされている。

ただし、それでもなお「津波」の恐ろしさを考えてほしい。今回の一連の対応は、まさに1960年のチリ地震をはじめとする過去の津波被害での尊い犠牲の上に立った万全の対応として評価されるべきであり、さらに磨きをかけるという観点から再点検を図るべきではないだろうか。そして、津波警報の有無ではなく、こと昨今頻発の度が強い遠隔地地震の情報にも常に注意を払うと共に、まず海辺で揺れを感じたら、即座に高台への避難を考慮するなど、改めて津波について一人ひとりが真剣に考える機会としてもらいたい。まさに「備えあれば憂いなし」なのだから。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 宝来英斗)

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