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防災コラムVol.169

「副振動」ってなに?

公開月:2006年6月

2009年に続き、今年(2010年)も九州沿岸では「副振動(ふくしんどう)」と呼ばれる潮位の急激な変化に伴う浸水被害が発生した。

静かな海面に突然の変動が

2009年2月24日夜遅くから、長崎県、熊本県、鹿児島県など九州の西海岸では急激な潮位の変化が観測され始めた。数十分おきに上昇と下降とを繰り返すこの海面変動によって、海岸沿いの家屋の浸水や港湾内に係留していた船舶の沈没・転覆といった被害が広範囲で確認された。こうした急激な潮位の変動は今年(2010年)の2月1日にも観測され、長崎県と鹿児島県で家屋の浸水、道路の冠水などの被害が発生している。

台風が接近しているわけでもなく、津波が発生したわけでもないのに、急激に潮位が変動するこの不思議な現象は「副振動」と呼ばれている。今回はこの副振動について、通常の潮位の変化とどのように異なるのかをみていく。

「潮汐(ちょうせき)」とは

急激な潮位変化がみられた場合は海岸から速やかに避難しよう。

副振動を考える前に、まず通常の潮の満ち干(潮汐)について整理しておこう。

地球は自らも引力を持っているが、それと同時に太陽や月の引力の影響も受けている。このうち、特に地球との距離の近い月の引力によって海面が持ち上がることで潮位の変動が起きる。潮位が最も高くなった状態を「満潮」、逆に最も低くなった状態を「干潮」と呼ぶ。地球が1日1回自転することから、地球と月との位置関係によって満潮と干潮は1日ほぼ2回ずつ起きる。

これに対して、太陽は地球からの距離では月よりはるかに遠いため、日々の潮位の変化に及ぼす影響は少ないが、毎月ほぼ2回、月・太陽・地球が一直線に並ぶ新月と満月の時には双方の引力が一致し、潮位の変化が大きくなる。これが「大潮」である。台風の接近時に「大潮と満潮が重なる時間帯は特に高潮による浸水に警戒」と繰り返し注意喚起がされるのは、このようにもともと潮位が高い状態にあるところに、台風の接近による気圧低下や暴風の影響が加わって潮位の上昇が促進されるからである。

満潮・干潮時刻など潮位の日々の変化は、気象庁が発表する「潮位表」によってあらかじめ知ることができる。なお、潮位の変化量は、地形や海流などによって地域ごとに大きく異なるので、調べる際には注意が必要である。

潮汐とは異なる潮位の変化-「副振動」の発生-

これまで述べてきたのは、地球・月・太陽という天体の動きや位置関係から事前に予測できる潮位の変化であった。ところが、局地的には、通常の変化とは全く関係なく急激に潮位の変化が発生することがある。これを潮汐における「主振動」に対して「副振動」と呼んでいる。

副振動の動きは、洗面器に水を張った状態で片方を持ち上げ戻した時に、容器の中を一定周期で水面が揺れる動きと同じである。ある特定の海域(先程の例における洗面器に相当する)において、低気圧の通過などで気圧の急激な変化が起きた際に(容器を揺らせる動きに相当する)、通常とは異なる周期の波が発生して潮位の急激な変化を生じさせる。特に、湾などの幅の狭い海域では潮位の変化がさらに大きくなりやすい。また、潮汐が1日ほぼ2回の周期であるのに対して、副振動は周期が数分から数十分と非常に短いのが特徴である。

発生予測の難しい副振動

隅田川河口付近にある霊岸島水位観測所。満潮・干潮それぞれの水位を平均した値が平均水位として公表されている。

九州の西海岸にある長崎県は、日本の都道府県の中で海岸線の総延長が最も長い県である。面積では最も広い北海道のわずか20分の1に過ぎない長崎県が、北海道(北方領土を除く)より1000km以上も長い海岸線を持つのは、島の数の多さとともに「リアス式海岸」と呼ばれる出入りの多い複雑な海岸線によって構成されていることによる。こうした複雑な海岸線は、天然の良港として漁業や交易など海上交通の要衝として発展してきた一方で、狭い海域である湾を多く持つことから、副振動による被害がたびたび発生してきた。

これまでで最も規模が大きい副振動は、1979年(昭和54年)3月に長崎市で観測されたもので、最大振幅278cm、周期35分という記録が残っている。この副振動では、海岸で海草を採取していた3人が海に流され、うち1人が亡くなったほか、係留中の船舶のロープが切れて転覆や沈没するといった大きな被害が生じている。

国内において副振動の発生する海域としては、この長崎県を含む九州の西海岸(東シナ海側)の例が知られ、地元の漁業関係者の間では「あびき」と呼ばれている(魚網が流される様子を表す「網引き」に由来するという説がある)。また、発生する時期は2月から4月の冬から春先に集中しており、発生時の気象条件も、九州の南海上を低気圧が通過した際に多いことが判明している。

このように、過去の観測記録から副振動の発生する条件には一定の傾向があることが分かってきたが、潮汐のようにいつ、どこで、どれぐらいの規模の潮位の変化が起きるのかを事前に予測することは現在でも困難である。しかしながら、3月をピークに冬から春にかけて多く発生する傾向は分かっているので、これらの時期に九州の西海岸へ海のレジャーに出掛ける際には、副振動の発生する可能性を考えておくとともに、急激な潮位の変化を感じた場合には速やかに海岸から離れるように心がけたい。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

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