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防災コラムVol.161

2004年インド洋大津波で被災したサンゴ礁の島モルディブ

公開月:2006年6月

インド洋大津波で被災したモルディブ共和国。低平なサンゴ礁の島国にとって国土の安全を考える礎となった。

サンゴ礁の島を襲った大津波

ミーム環礁マディフシ島。津波によって破壊された住居群(2005年8月撮影)

日本から年間約4万人の観光客が訪れるインド洋のモルディブ共和国。ダイビングを楽しむ人たち、休暇や新婚旅行でリゾートを訪れる人々には憧れの地である。モルディブ諸島は北緯7度 7分から南緯0度 42分の間、南北約760 km・東西約120 kmの広大な海域に点在する約1,190の島々よりなっている。陸地面積は合計で298km2、淡路島の半分ほどである。島々は環礁と呼ばれるサンゴ礁の上にのる低平な国土であり、高度は最高でも4m程度、ほとんどは2m以下である。

2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震による津波によって、モルディブでは死者82名、不明者26名、3,997戸の住宅・建造物被害が発生し、国民の約3分の1が深刻な影響を受けた(写真)。モルディブ諸島は震源から約2,300km離れているが、その間が深い海洋底であるため津波は時速700km近い速度で西進し、地震発生から約3時間半後に津波が到達した。この津波は、モルディブ諸島だけでなく、太平洋・インド洋の環礁上の島々にとっても記録に残る最大の津波であった。

現地調査で明らかになった前兆現象

島長のNasserさん(左)。ミーム環礁の首島・ムリ島にて津波時の状況を語る(2005年8月撮影)

筆者は2005年2月と8月に現地を訪れ、モルディブ政府環境リサーチセンターの船を使って、同諸島北部から南部までの合計43島で水位痕の計測、地形測量を行い、あわせて津波の襲来状況や避難行動についての住民への聞き取り調査を行った。

津波の襲来は現地時間で午前9時から10時の間で、島の位置によって多少異なる。ちょうど朝食後の時間であったため、海岸で皿洗いをしていた女性などが津波の襲来を目撃した。インド洋大津波は一般に、震源の西側地域で前兆を伴わずに襲来したといわれている。しかしながら、南部モルディブにおける住民たちの証言から様々な種類の前兆現象があったことが分かった。

ミーム環礁区東側に位置するムリ島では、津波が到達する2分前から大音響とともに島の東側で海水が泡立つ現象がみられた。その後、東から腰の高さほどの波が押し寄せ,約1分後に2.4mの波が2度にわたって押し寄せた。同環礁のコルフシ島では、津波到達10分前から何かが砕けるような大音響が続いた。同島東海岸では、津波が到達する前に海水が沸騰するように泡立ち、その後、海底の砂が見えるほど潮が引いて、大波が襲来した。ラーム環礁区東部のカルハイドゥ島では最大波が到達する前、約2分程度の間に2つの小波が押し寄せた。これらの小波では、ともにリーフの上で音を立てながら海水が泡立ち水位が上昇するとともに、島内でも地下から音を立てながら泡立つように水がわいてきた。この波によって家々の床のタイルが持ち上がり割れた。

こうした島々は主にサンゴ礁起源の石灰質の砂で構成されており、その基盤のサンゴ礁にも空洞が多く存在する。リーフ上で海水が泡立つ現象(バブリング)や、島内で地面から水が泡立ちながら沸いてきたなど、空洞の多いサンゴ礁によって形成される島特有の構造によるとみられる現象が多くの島で報告されている。

以上のように、津波が到達する2~10分前より轟音が発生すること、海水が泡立つバブリング現象が発生すること、津波の最大波が到達する数秒~10秒前には、家々の床のタイルが持ち上がる現象が発生する場合があることがわかってきた。

人々はどのようにして助かったか

サンゴ礁から形成される島々の高度は低く、住民は平均海面から1m程度の高さの陸上に居住している。しかし、筆者たちが測定した水位痕によると、モルディブ諸島におけるインド洋大津波の高さは最大3.6mに達する。人々は、津波の襲来に対して、どのように行動したのだろうか。

南部のミーム環礁のコルフシ島では、津波襲来時の大音響によってほとんどの人々が道端へ出てきていた。このため流された人が多かったが、一人の女性は彼女の赤ん坊とともに3mの高さにある屋根の上に押し上げられ助かった。津波到達後は、多くの人々が屋根の上や木の上にいたという。また、多数の人が東からの波で西側の内海(ラグーン)(註:島の外の海域)に流された。その数は北南両村合わせて200~300名程度にはのぼったという。津波到達前の島民数が1,238名であったため、人口の約6分の1から4分の1がラグーンに流されたことになる。これらの人々は5分後に西側から押し寄せた波で島へ押し戻されほとんどが助かったというマンガのような本当の話も聞くことができた。

住民の避難にあたっては、グァバやブレッドフルーツのような枝のある木々が役に立ったことがわかった。3歳の幼児でさえも自力で木に登って助かった例がある。また、頑丈な塀で囲まれた広場への避難も有効であった。島々ではドーニとよばれる漁船が、海へ流された人々を救出するのに活躍した。

明らかになった環礁の津波応答

モルディブの被災状況を元に、サンゴ礁上の島々の津波に対する応答をまとめると以下のようである。モルディブ諸島ではほとんどの島で津波による大きな地形変化はみられなかった。また、筆者らの調査した43の島では顕著な津波堆積物はみられなかったし、他の島からも報告されていない。島の表面は細粒の砂でできているにもかかわらず、津波後、その姿にほとんど変化はなかった。広範な海域でのサンゴ礁調査では、現生サンゴへの影響もモルディブ全域でわずかであったことが確認されている。すなわち、モルディブ諸島のサンゴ礁上に形成された島々において堆積物の地形・地質システム、および海面下の生態系は、津波に対しては大きな影響を受けなかったといえよう。しかし島上内の建造物・植生そして住民たちは大きな被害を受けた。このように津波に対するサンゴ礁とその上にのる島の構造的な強さと、その上にのるインフラストラクチャーの脆さが浮き彫りになった。

この津波によってモルディブ共和国が受けた被害は、今後の大津波によって太平洋・インド洋上に浮かぶサンゴ礁の島々が被る可能性のある被害を示唆しており、より安全な国土とはどのような島であるかを考える基礎となるであろう。

※本論の内容については『温暖化と自然災害-世界の六つの現場から』(古今書院 2009年)の第三章「モルディブ諸島にみる環礁立国崩壊の危険性-災害と開発の連鎖」の中で、「インド洋大津波が浮き彫りにしたサンゴ洲島の強さと弱さ」と題して、温暖化にともなう環礁国の問題とともに紹介している。津波時の記述は以下の参照リンクで示した論文によるものである。

(文・岡山大学 教育学研究科 教授 菅 浩伸 / 監修:レスキューナウ)

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