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防災コラムVol.156

首都圏統一帰宅困難者対応訓練(後編)

公開月:2006年6月

前回に引き続き、2009年9月26日に行われた「首都圏統一帰宅困難者対応訓練」についてリポートする。

訓練参加者を支える情報の訓練

情報本部の様子。現場から上がってくる情報がホワイトボードを埋めていく。

情報本部の難しいところは現場が見えないことだ。沿道にカメラをつけることもなく、得られるものはエイドステーションのスタッフや沿道の参加者からの情報のみ。これらの情報をもとに、沿道にいるボランティアのバイク隊の協力などを得て、地図とホワイトボードを眺めながら現場で何が起こっているかをひたすらイメージする。その上で、足りない情報については何らかの手段で本部から状況を取得するためのアクションをする。たとえばバイク隊に確認を頼むとか、無線で該当のエイドステーションに詳細を確認するとか、参加者からの投稿を募るといった方法を使う。それをひたすら繰り返す。

午前11時ごろ。昼食場所から連絡がくる。先頭はいまどこか?と情報本部に照会の内容。

午後1時半。神奈川コースの先頭からゴールの知らせ。競争ではないので最後尾の到着をゆっくりと待つ。

午後2時すぎ。千葉コース・埼玉コースの先頭からゴールの知らせ。ゴール地点でアンケートやゼッケンの回収。豚汁などの配布があって終わる。参加者はそこから最寄りの駅までさらに歩き、現実に戻りながら家路に就く。

災害をどこまで想定するのか。

この訓練に限らず、防災や災害対応を想定した訓練には、ジレンマがある。それは訓練をどこまで安全・無事に実施するかという「イベント運営」の側面と、訓練としてどこまで「災害のリアリティ」を追求するかという問題だ。今回の訓練も沿道にエイドステーションやトイレ協力など事前の準備があって行われている。しかし、当然ながら実際の災害時はこの準備がない状態で徒歩帰宅が発生する。人数ももっと多いだろう。

2005年7月の中央防災会議首都直下地震対策専門調査会の報告書(帰宅困難者に係る被害想定(東京湾北部地震M7.3))によると、帰宅困難者といわれる人は一都三県で約650万人にもなるとされている。2008年4月に発表されたシミュレーション結果によると、歩いている人の密度は1平方メートルあたり6人以上の場合も想定され、1時間に400メートルほどしか歩けないという。その過酷さは当然訓練とは比べものにならない。歩くルートによっては滞留者や被害度にムラが生じ、被災者それぞれが背負う条件は全く異なる。

体験すること・準備の必要を認識することの意味。

給水や休憩場所となっているエイドステーションのスタッフも、情報本部へ現場の状況を伝えていた。

「実際とは比べものにならないから訓練をする意味はないのか?」と言われればそれは違う。実際にコースを歩いたり、コース参加者にエイドステーションから支援をする際の調整と準備、体力や忍耐力、さらにそれぞれの力の引き金となる情報の必要性がよくわかってくる。コースを実際に歩くということで言えば、歩き進んでいくに従って地形や町並み、人数など条件が徐々に異なっていく様子は地図を眺めているだけではおそらく想像がつかないだろう。

エイドステーションも同様に個々の条件の違いがポイントかもしれない。たとえば設置する予定の広場や施設の広さや出入口の導線。そもそも、そこに設置するにあたっての地元地域の協力が、実際の災害時にも得られるのかは誰にも分からないなど、課題は幾重にも絡んでいる。いずれにしても実際の場所を想定して訓練をしてみることは、自分の中にある災害時のイメージをよりリアルにしてくれることがわかるし、乗り越えるためには細かく協力して一つ一つを積み上げていくしかないことに気づく。

「こちら情報本部。しんがりさん取れますか?」
「こちらしんがりです。今ゴールしました!」

午後5時前。千葉コースの最後尾からゴールに到着した連絡が入った。コース情報担当の学生ボランティアがホワイトボードに「16時53分:しんがりゴール」とかいた後、ちょっと疲れた顔を見せながら訓練終了の連絡を準備していた。

(文・レスキューナウ 岡坂健)

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