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防災コラムVol.149

都賀川の水難事故から一年

公開月:2006年6月

集中豪雨による急激な河川の増水によって5人が犠牲となった神戸市・都賀川の水難事故から一年が過ぎた。神戸がこれまでも度々水害に見舞われてきたことを改めて振り返ってみたい。

増水の恐ろしさを今も伝える

六甲山麓を流れる都賀川。目の前に六甲山がそびえている。(筆者撮影)

2008年7月28日、神戸市灘区を流れる都賀川で、流域で降った豪雨によって川が急激に増水し、川原で遊んでいた小学生など10数人が相次いで流され、このうち5人が亡くなる事故が起きた。事故当時、川の水位は10分間に1.3mも急上昇したため、川原にいた人は逃げる間もなかったと考えられる。

同じような事故を二度と繰り返さないように、という神戸市の考えから市のホームページでは、事故当時の都賀川の様子を動画でみられるようになっている。これを見ると、わずか2、3分の間に川幅いっぱいにまで急激に水量が増加した様子が分かる。しかし、その反面、雨が止めば2時間ほどで再び元の水量に戻ってしまうことも分かり、増水時の川の恐ろしさを改めて我々に伝えるものとなっている。

70年前の大水害「阪神大水害」

大雨による洪水への注意を呼びかけるポスター(筆者撮影)

都賀川は、神戸市の市街地の背後にそびえる六甲山地から流れてきている。この六甲山麓は、これまでも度々大きな水害に見舞われてきた。その中でも最も被害が大きかったものが、1938年(昭和13年)7月の阪神大水害である。

「一面に茫々たる濁流の海で、山の方から大きな波が逆捲きつつ折り重なって寄せて来て、いろいろな物を下流へ押し流している、人が畳の上に乗ったり木の枝に?まったりして助けを呼びながら流れて行くけれども、どうすることも出来ない有様だ(中略)鉄道の線路は、その泥海の中へ埠頭の如く伸びていて、もう直き沈没しそうに水面とすれすれになっているところもあり、地盤の土が洗い去られて、枕木とレールだけが梯子のように浮かび上っているところもある。」

これは、谷崎潤一郎の小説『細雪』の一節である。戦前・戦中という時代の奔流の下で芦屋(兵庫県)の高級住宅地に暮らす四姉妹の日常を描いたこの作品の中で重要な場面の一つとして登場するのが、先に引用した阪神大水害である。小説故の誇張された描写とも受け取れるが、実際に居住し、被災した谷崎自身が見た光景を生々しく表現していることが当時の被害状況の写真からも裏付けられる。

本州付近に停滞する梅雨前線の活動が活発になったことで発生したこの大雨は、7月3日から5日までの3日間に集中し、この間、神戸市中央区で456mm、住吉(神戸市東灘区)で436mm、西宮市で362mmの雨量を記録した。特に神戸市では、7月5日の午前8時から正午までの4時間に166mmもの雨量を観測しており、この集中豪雨をきっかけとして、六甲山地を刻む無数の谷で土石流が発生し、下流の神戸市・芦屋市・西宮市などを襲った。これら阪神地域は、明治以降住宅地として開発が進み、人口が集中していたこともあって被害も大きく、死者・行方不明者627人、流失を含めた損壊家屋3万5000戸、浸水家屋18万戸にものぼる甚大な被害を残している。奇しくも、都賀川での水難事故が起きた昨年(2008年)は、阪神大水害から70年目の節目の年であった。

これほどの災害を引き起こした要因として、上流の六甲山地の荒廃が著しかったことが指摘され、戦後にかけて治山工事と砂防工事が実施されてきた。しかし、この阪神地域では、阪神大水害以降も1961年(昭和36年)、1967年(昭和42年)と水害に見舞われており、それぞれ数十人が犠牲となっている。

急斜面が急激な増水を生む

六甲山地と大阪湾にはさまれ、平地の少ない神戸は坂の街とも形容され、六甲山地の斜面には多くの住宅地が開発されてきた。こうした住宅地は、神戸港や大阪湾を見下ろす風光明媚さが多くの人を惹きつけてきたが、これを別の視点から見ると、危険と隣り合わせであることも分かる。

六甲山は900mを越える標高を持つが、神戸市街に流れるこの六甲山を源とした河川の長さはいずれも5kmほどと非常に短い。このためその勾配は非常に急であり、流域で降った雨はあまり時間を置かずに下流まで流れてきてしまうばかりか、雨量が増えればこのような小河川は容易に氾濫し、周辺の住宅地が浸水することも考えられる。

事故後、都賀川流域では、急激な増水に注意する看板を設置したほか、大雨注意報や警報が発表された場合にサイレンや赤色灯によって川原にいる人に注意を促すといった施策を行っている。もちろん、降雨時に様々な気象情報に注意を払うことは重要だが、ハザードマップなどを通して地域の河川の地形や過去の洪水時の浸水状況を理解すること、また雨が降った時の水位変化の特徴を見るなど、平時から河川の状況を把握した上で、危険が迫った場合には先んじて行動し、自分の身を守ることも必要となるだろう。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

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