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防災コラムVol.144

ダム湖決壊事故の責任はどこへ -インドネシア ダム決壊事故-

公開月:2006年5月

2009年3月、インドネシアで大規模なダム決壊事故が発生し、多くの犠牲者を出した。この事故の背景について、インドネシア在住の記者・岡坂泰寛氏がリポートする。

深夜の惨劇、逃げる暇はなく

ギントゥン・ダム湖の決壊現場=3月27日午後2時ごろ、筆者撮影

2009年3月27日午前2時ごろ、ジャワ島西部のバンテン州タンゲラン県にあるギントゥン・ダム湖が数日にわたって続いていた豪雨の影響で堤防の一部が決壊、堤防に隣接した周辺の民家に濁流が流れ込み、100人の住民が死亡した。ダム決壊事故としては、近年、インドネシアで最大クラスの事故。ダムは、オランダ統治時代の1930年代に土造りで建設されたもので、老朽化が進んでいた。

事故は深夜に発生した。「突然のことで逃げ出す暇もなかった」と決壊現場の近くに住んでいたマヒュディンさん(52)は語った。堤防が抉(えぐ)られるように寸断され、決壊箇所の幅は約30メートル、高さ約15メートルに達していた。低地では土砂の勢いが強く、濁流にのみ込まれ跡形もない。コンクリート造りのモスクだけが原型を残していた。

負傷者の多くが運び込まれた南ジャカルタのファトマワティ病院では、午後4時までに18人の死亡が確認された。集中治療室(ICU)には、約20人の負傷者であふれていた。その中には、赤ちゃんや老人もいた。

農地と住宅地に改変、事故拡大の要因に

事故現場周辺は元々農地であったが、その後、インドネシア政府(以下、国)によって貧困層の人々が暮らす住宅地となった。そのことが死者拡大に影響した。

事故から3カ月が経過し、国のずさんな管理が徐々に浮き彫りになりつつある。ギントゥン・ダム湖では、以前から堤防に亀裂が入っているとの指摘があった。州政府は、州内のダム湖に対して定期的な検査を実施しているが、2008年に行われた検査では問題は確認されなかったとされている。

インドネシア国内の専門家からは国に対して、管理や補修の義務、責任を怠ったとする指摘が出ている。非政府組織(NGO)のインドネシア環境フォーラム(ワルヒ)は、閣僚や州政府高官6人を国家警察に告発した。政府の体制に問題が無かったか、今後徹底的に洗い出しを進める必要がある。

洪水被害と重なり、貯水池も老朽化

東ジャカルタ・ジャティヌガラで今年1月に発生した洪水=筆者撮影

インドネシアでは、豪雨による災害が毎年雨季に深刻化している。首都圏では、2002年に37人、2007年には80人が死亡する大規模な洪水が発生し、都市化に伴う水害対策の遅れが指摘されている。市街地拡大による降雨の急激な流出が一因となっており、国にとって河川流域における貯水池の建設などが急務となっている。

洪水対策の強化を指摘する声は、これまで長く首都圏を中心に叫ばれていた。しかし、国の対策は一向に進まず、洪水は庶民にとっても毎年恒例の行事となってしまっている始末。豪雨の際には、数の足りていない貯水池に毎年、許容容量を超える雨水が貯まり、老朽化を加速させている。

遅れる復興、援助

国は、事故により被災した295世帯、1048人に、500万ルピア(約5万円)の支援金の支払う方針を決めたが、地元紙では「放置される被災者」との見出しで、住宅を失った被災者への援助が遅れているとする国を批判する記事が掲載された。

ダム湖の再建計画も国からの予算調達や設計案の作成の遅れから、計画は延期された。再建にかかる費用は3000億ルピア(約30億円)に上る見込み。いつ再建工事が再開、完工するか見通しは発表されていない。

今後も事故発生の懸念

2009年5月には、首都ジャカルタの沿岸地域に位置する貯水池(約80ヘクタール)で、堤防の一部が損壊し、高級住宅地6地区で約30センチから100センチの冠水の被害が出た。豪雨により雨量が堤防の高さを越え、堤防の3カ所で破損が確認された。堤防は1984年に土で造られたもの。警察の調べによると、2008年にも同様の事故が発生していたが、コンクリートなどによる堤防の補強は行われてこなかった。

国と州政府は、一刻も早く管轄地域内の貯水池やダム湖の再検査を進めるべきだ。検査方法などを精査、指摘する第三者機関の存在も必要視されている。

都市開発を含め、今まで放置していたずさんな管理問題がここに来て一挙に表面化している。

(監修:レスキューナウ 文・インドネシア在住記者 岡坂泰寛)

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