1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災コラム
  5. 「エムネット」と「Jアラート」にみる緊急情報伝達
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災コラムVol.132

「エムネット」と「Jアラート」にみる緊急情報伝達

公開月:2006年5月

有事の際、私たち国民がいち早く情報を知る手段を考える

北朝鮮が飛翔体を発射 そのとき…

2009年4月5日11:30頃、北朝鮮はかねてから発表していた飛翔体を日本海方面に発射、3段式ともされるミサイルは、1段目が秋田県沖の日本海に、2段目以降は日本の東北地方のはるか上空を飛び越え、太平洋上に落下したとみられている。
弾道ミサイルの発射実験とする日本政府は、米軍などの協力を得て事前から監視体制を強化、発射の2分後に探知、即時に地方自治体や報道機関などに対し緊急情報ネットワークシステム(Em-Net:以下エムネット)を通じて「飛翔体発射」を伝達した。1998年8月31日の「テポドン1号」発射時の約90分後、2006年7月5日の「テポドン2号」発射時の約30分後という公表時間からすると、今回北朝鮮が国際海事機関(IMO)に人工衛星発射の事前通報をしていたことを踏まえても、格段の速さで伝えられたことになる。

しかしながら、今回の対応では今後への課題が露呈することともなった。4月4日には2件の誤報事案が発生、うち12時過ぎには「誤探知」による飛翔体発射情報をエムネットで伝達、テレビなどで全国へ速報され、5分後に訂正される事態となった。また、緊急事態伝達の切り札とも言うべき全国瞬時警報システム(J-ALERT:以下Jアラート)については、国内への着弾可能性が低く、他国による武力攻撃には当たらないと日本政府が判断したことから事前に活用が見送られている。
ところで、この「エムネット」と「Jアラート」というものはどのようなものなのだろうか。

メッセージを地方自治体等に強制伝達-エムネット

今回の北朝鮮飛翔体発射事案ではJアラートの活用が見送られた。

エムネットは、国と地方自治体間の総合行政ネットワーク(LGWAN)を利用して、緊急情報の双方向通信を行うものである。2004年までに成立した有事法制に基づき、内閣官房が2006年から導入・整備を進め、2009年3月末時点で全国1800市区町村のうち1287市区町村が参加しているほか、報道機関や公共交通機関など指定公共機関も対応。国民一般には間接的に情報提供される仕組みとなっている。
システムとしては電子メールの送受信に近いが、迅速・確実に緊急情報等を伝達させるため、メッセージを強制的に相手側に送受信させるようになっており、従来のFAXによる文書伝達と並行して実施することで確実性を高めている。

実は今回の「飛翔体発射事案」が実働後初運用となったが、4日の「誤探知」のほかにも、サーバートラブルやメッセージ本文が表示されないなどのトラブルも一部で確認されている。FAX文書伝達で大きな問題とはならなかった一方、「誤探知」事案について対応に当たった自治体職員からは、結果的に翌日の予行演習となり”本番”でスムーズに対応できたとの声がある一方で、「オオカミ少年になりはしないか」との声も。
そもそも、メッセージを受け防災無線や災害情報メールなど自治体の広報手段へ職員が「伝達」する間のタイムロスがあるほか、直接危険性のない事実であることから広報そのものを実施しない自治体も少なくないなど、対応が分かれる結果ともなっている。

防災行政無線から対象住民に直接伝達-Jアラート

NHKと民放各局はリアルタイムで飛翔体事案を報道した(2009年4月5日正午すぎ 河村官房長官記者会見)

Jアラートは、地域衛星通信ネットワークを利用して、市町村の防災行政無線を自動起動し、国からの情報伝達を直接住民に伝えるものである。総務省消防庁が2004年から開発・導入を進めており、2007年2月から一部正式運用が開始された。システム導入のコスト負担に加え、現時点で全国のうち75%程度の整備率とされる防災行政無線が必須であることから、2009年4月時点で全国1800市区町村のうち導入されているのは211市区町村のみ、という状況にある。今回の飛翔体発射事案での利用見送りの背景としては、このように導入が進んでいない現状を踏まえたものともされている。
Jアラートは、有事関連情報のほか緊急地震速報や津波情報などの各種気象関連情報についても利用されるが、現時点で実際に運用された事例はない。なお、実証実験期間中には避難訓練の一環として活用されるなどしている。

国の発表情報が防災行政無線などを通じて直接伝達されるため、自治体側での人的負担が大きく軽減される一方、自動制御のため誤作動による「誤報」騒動も過去に数件報告されている。自然災害時における防災行政無線が聞き取れない状況(地震による機器損傷や、豪雨時による聴取困難等)を踏まえ、携帯電話メールやコミュニティFM、CATVなど別手段による並行伝達を考慮すべきとの意見もある。

さまざまな手段を活用して正確な情報伝達を

今回、テレビやラジオを通じて情報を知った国民が多いと思われるが、それらを見聞きしていない場合に緊急情報をどのように受け取るかは大きな課題といえる。政府・与党は今回の事態をも踏まえ、2009年の補正予算でJアラートの整備推進のための財政支援を検討すると報道されているが、エムネットやJアラートといった伝達手段の存在そのものがなかなか知られていないのが実状ではないだろうか。
また、ここ最近、津波警報・注意報の発表に伴う避難勧告で、実際に住民の避難行動が行われていないとも伝えられる。また、地方自治体が緊急情報メールやWebを活用した情報伝達を行っていることの認知度が比較的低いともされている。今回の「誤探知」をめぐる調査と対応は急務と考えるが、私たちがそのような情報に際したときに、どのようにすべきかについても、私たち自身が予め考えておく必要があるのではないか。

今回、エムネットのトラブルの中、FAXによる並行伝達が機能し、結果的に大きな問題にならなかったとされている点からも、新しいメディアと既存の馴染み深い通信手段を組み合わせた上で、正確・確実な情報伝達方法を確保するとともに、受け取り手がどうすべきかを見つめなおす機会とすべきだと考える。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 宝来英斗)

copyright © レスキューナウ 記事の無断転用を禁じます。

会社概要 | 個人情報保護方針