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防災コラムVol.98

「震度6強」でも差が出た被害状況

公開月:2006年4月

激しい揺れも地震のメカニズムが異なると影響が大きく異なることに

東北地方で大きな地震が続いた

2008年7月24日、岩手県沿岸北部を震源とするM6.8の強い地震が発生、岩手県洋野町で震度6強、岩手県・青森県で震度6弱を観測した。6月14日の岩手・宮城内陸地震に次いで、東北地方は短期間に2度の激しい揺れに襲われたことになる。

「気象庁震度階級関連解説表」によると、震度6強の揺れでは、人間は立っていることができず、這わないと動けない。多くの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する。耐震性の低い木造住宅では、倒壊するものが多い―と表現されている。しかしながら、今回の地震では一部損壊家屋210棟、全半壊家屋が確認されていないことから、本当に震度6強相当の揺れだったのかとの声が一部で上がっていた。

気象庁地震機動観測班の現地調査では、岩手県洋野町の住民から、「這って歩くこともできなかった」「歩くのは厳しかったのでベットにしゃがみこんだ」などの証言が得られ、震度階級関連解説表と比較して震度6弱~6強相当の揺れを感じていたと発表している。

卓越した短周期成分により建物被害は比較的軽微に

長い振幅の地震動を受けると家屋は倒壊しやすい

震度階級関連解説表の注意点として、震度が同じであっても、対象となる建物、構造物の状態や地震動の性質によって、被害が異なる場合があるとされているが、今回の地震では、地震波の周期に特徴的なデータが現れていた。

地震波にはさまざまな周期の波が含まれているが、構造物が持つ固有の周期と重なることで破壊的影響がもたらされることが近年注目されている。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震などにおける低層家屋の甚大な被害で顕著となった、周期が1~2秒程の「キラーパルス」と呼ばれる地震波や、十勝沖地震における苫小牧石油タンク火災や新潟県中越地震における東京の超高層ビルエレベーター損傷の原因とされる、周期が十数秒以上の「長周期地震動」といった言葉を聞いた事があるという人も少なくないだろう。

これに対して、岩手県沿岸北部の地震では、キラーパルスよりもさらに短い0.2秒前後の周期の地震波が顕著であったことが確認されている。文部科学省の地震調査研究推進本部地震調査委員会は、「短周期成分が卓越していたため、加速度の大きさの割に建物の被害が甚大とはならなかったと考えられる」との評価を発表している。なお、今回の地震は震源の深さが約108kmとかなり深かったことから、関東地方など震源地から離れた場所では長周期地震動特有の揺れが感じられている。

日本の震度観測の歴史

気象庁のHPでは地震の細かなデータも閲覧することができる

日本の震度階級は、気象庁の前身である東京気象台が1884年に定めた「地震報告心得」以後、数度の変更を経て現在に至っている。1908年には震度0~6の震度階級が定められ、1948年の福井地震での被害状況を受けて、翌1949年に「震度7」が設定。その後、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を受け、翌1996年に震度5・震度6をそれぞれ「強」「弱」に分ける現在の10段階の震度階級へと改められている。

一方、震度観測は長らく気象台の職員による「体感震度」で決定されていたが、災害への迅速な対応基準として重要視されるようになり、気象庁は1991年に世界に先駆けて震度計を開発、1996年から計測機器による「計測震度」に変更され、即時発表されるようになった。

気象庁の震度データベースによると、1926年以後、最大震度6以上が観測された地震は41回。最大震度7が観測されているのは1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)と2004年の新潟県中越地震。最大震度6強は今年の2回を含め8回、最大震度6弱(および1996年以前の震度6)は31回観測されている。

より詳細なデータが地震メカニズム解明へ

震度計測は1996年の計測震度発表開始時点で気象庁設置の約600地点だけであったが、1997年から地方公共団体設置分が、2003年から防災科学技術研究所設置分が順次追加され、2007年3月時点で、気象庁599地点、地方公共団体2,847地点、防災科研777地点と、実に当初の7倍となる全国4,223地点で観測されている。

震度6以上の地震発生回数が、体感震度で決定されていた1996年以前で13回、以後12年間に28回ということから、強い地震が近年多く観測されていると思われるかもしれないが、これはより多くの地点での揺れが捉えられるようになった証左であると共に、地震波の振幅や地震加速度という多様なデータが分析されることで、地震のメカニズムの更なる解明、ひいては地震災害対策の進展が期待されるという意味においては、見過ごせない数字であるということが改めて実感されるだろう。

計測震度と実際の被害状況の安易な想起に注意を

今回の地震では、建物被害の状況との対比で計測震度が過小評価される傾向にあるとも感じられるが、各所で土砂崩れが発生し、また一部在来線で発生から2週間以上経過した後でもなお徐行運転が行われるなど、大地を揺るがした影響が大きかったことは確かだ。私たちは、激しい揺れも地震のメカニズムが異なると影響が大きく異なることを理解した上で、これまでの地震災害から学ぶと共に来るべき地震に備えたいものである。

また、計測震度が迅速な災害対応の基準となっている現状を踏まえると、震度計の設置場所、および設置方法についても問題点がないわけではない。消防庁と気象庁でも2004年と2006年に自治体設置震度計の設置環境調査を実施しているが、国民の生命・財産を保護する観点から、より正確な把握がなされる観測体制強化を期待したい。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター専門員 宝来英斗)

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