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防災コラムVol.92

新型インフルエンザと産業医

公開月:2006年4月

人材を守ることは企業や行政の事業継続に直結する。産業医は積極的に関与すべきである。

ある外資系企業の取り組み

移動の高速化で世界中に感染が拡大する(イメージ)

最近、ある外資系企業の部長と話す機会があった。彼女は、その企業の日本法人でリスクマネジメント、特に新型インフルエンザを担当している部長であるのだが、非常に興味深い話をしてくれた。

昨年の正月のことだ。米国本社から、世界各国の現地法人の役員宛に新年のメッセージが納められたDVDが送られてきた。その中で、5年以内に新型インフルエンザが100%流行または発生するので、対策を行うようにという趣旨の話があったということである。今年の正月にも同様のDVDが送られてきたそうで、新型インフルエンザ発生の評価は昨年と同様であった。

筆者自身がそのDVDを見ていないので、真偽の程は保証できないものの、世界的な企業の新型インフルエンザ対策をうかがい知る話であった。

新型インフルエンザと企業活動

厚生労働省は、新型インフルエンザのパンデミック(世界的な大流行)が発生した場合、日本人の約4分の1が感染すると予想し、医療機関を受診する人数を最大約2500万人と見積もっている。

企業活動の視点からみると、ここまで多くの感染者が出れば、出勤できる従業員の数は大幅に少なくなることが予想されよう。従業員やその家族が感染すれば、出勤することは困難になるばかりでなく、感染した従業員が無理して出勤すれば、職場や通勤途上においてもウイルスをばらまくことになりかねない。

したがって、感染防止や事業継続という観点からは欠勤という選択肢は当然のこととして扱われるだろう。

ある国内電機メーカーの対応

企業向けセミナーも増えてきている(レスキューナウ 危機管理セミナー・イベント案内)

ある国内の大手電機メーカーでは、ショールームや若干の飲食店をもつ40階建てのビルのほぼ全体を事務所として使用しているのだが、そこで働いている社員に一人でも新型インフルエンザの患者が発生すれば、ビル全体を閉鎖する方針を打ち出している。

製造現場でも、同様の対応がなされるものとみられる。日本全国に新型インフルエンザが蔓延した時点、すなわちパンデミック時には、企業活動の大部分が一時的にせよ停止する見込みである。

パンデミック時に自社も含めて、テレビや洗濯機などの家電製品を消費者の皆様に買っていただけるとは思えません、というわけだ。妥当な判断であると思う。

このように、感染防止はパンデミック時の少なくとも初期では、最優先される事項となるので、企業活動は止まっていくと思われる。

あの日、何人が緊急地震速報に気がついたのか

緊急地震速報の発表が、揺れを感じる前に間に合ったとしても数秒程度の猶予時間しか与えてくれない。その間に一体何ができるのだろうか。デパートなどの集客施設では、様々な方法で利用客に緊急地震速報を伝え、安全に避難をさせる訓練を行っている。一般家庭で同様に訓練をすることは難しいが、受信した時どうするか?せめて「速報に気がついたら声を掛け合う」、「丈夫な机の下などで身を守ろう」ぐらいは決めておきたい。

総務省のホームページによると、テレビ放送は2011年7月にアナログ放送からデジタル放送に全面移行される。横浜国立大学工学部の高橋冨士信教授らの研究グループは、地上デジタル放送やワンセグ放送で緊急地震速報を受信した場合、アナログ放送に比べて約2秒遅れるという調査結果をまとめている。速報が遅れる以外にも、それぞれが部屋で休んでいるとき、お風呂やトイレに入っているときなど、情報を受け取れないことも十分考えられるので、家具の固定など日常からの備えが大切である。

止められない企業活動もある

その一方で、止められない企業活動もある。その典型例が、水や電力の供給や通信の確保。また、食糧の生産や流通といったものである。

水や電力の供給が止まれば、病院機能はいずれ停止するだろう。自家発電装置や給水タンクはせいぜい数日しかもたない。新型インフルエンザで呼吸困難に陥り、瀕死の状態に置かれた患者の命の綱は、人工呼吸器である。この人工呼吸器が使えなくなる可能性があるのだ。照明が消えれば、夜間の診療は不可能になるだろうし、水が使えなくなれば、治療全般ができなくなる。だから、水と電力はどうしても止められないということになる。
つまり電力会社は発電所を止められない、ということになるのだ。これは在庫が不可能に近い電気の特性によるものである。

電力の維持

当たり前のことであるが、発電所を動かしているのは、人間である。中には、遠隔操作の可能な水力発電所もあるが、ほとんどの発電所は従業員が常駐して、稼働している。

パンデミック時には、感染のリスクはあるものの、発電機能を維持するための従業員の確保を行わなければならない。会社に出勤することは、一定のリスクが伴うものの、より高次の社会機能維持のため、仕事をしていただかざるを得まい。

「かけがえのない人材」とは

近年わが国が経験した災害事例から推測するに、このような危機的な状況になれば、必ずこれを救おうと努力する人間が登場する。

筆者自身が被災した阪神・淡路大震災では、金髪のお兄さんが崩れた家を必死に掘り起こすのを目撃している。日本海でロシアタンカーが沈没した際には、沿岸に漂着した重油を回収するために、全国から集まったボランティアが油まみれになった。その後の各種災害においても、復旧復興に力を尽くす関係者は多かった。

これら日本人の行動パターンから察するに、電力確保などの止めることができない企業活動の維持・継続について、強い責任感と信念をもって従事する「かけがえのない人材」が現れると思われる。

「かけがえのない人材」を守るのは、言うまでもなく、産業医を中心とする労働衛生の責務であり、最終的には事業主の責任である。新型インフルエンザパンデミックという未曾有の危機を前にして、「かけがえのない人材を守る」ことができるかどうかが、その企業の運命を決すると言っても過言ではあるまい。

なお、「かけがえの人材を守ろう」というのは、畏友であるNKリスクコンサルティングの中君の打ち出したスローガンであることを付け加えておく。

(監修:レスキューナウ 文:川崎重工業播磨工場産業医 洙田靖夫)

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