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防災コラムVol.90

「弁当プロジェクト」は被災地経済を救う

公開月:2006年4月

仕事は被災地に落ちている。地域で連携して経済活動を継続せよ。

支援物資・ボランティアの功罪

新潟県中越地震発生から5日目の小千谷市役所。救援物資が庁舎内に収まりきれていない(筆者撮影)

災害が発生し、被災地の食糧や物資が不足すると全国から善意による義援金や物資がたくさん送られてくる。しかし、この善意が時には被災者にとってマイナスに働くことをご存じだろうか。支援物資が行き渡るようになった後も、多くの被災地では山のように物資が届けられ、保管場所にさえ困る事態が生じている。また、被災地に無償で物資が配られることで、被災地の小売業者、サービス業者、飲食業者らの営業機会が奪われている。被災者にとって避難所に行けば、タダで食事ができたり、物資がもらえたりするものを、わざわざお金を払って購入する必要はないからである。

これはボランティアについても言える。ボランティアが無償で被災者の散髪をすれば、地元の理容店の売り上げが落ちる。それは、結果として地域の経済復興を遅らせることになるのだ。

被災地にお金が落ちる仕組みを

1995年の阪神・淡路大震災では、実に4万人から10万人が震災を原因として職を失ったと言われている。被災地域の事業所は、たとえ零細なものが多くとも、全体としてみれば地域に大きな雇用を生み出している。地域の事業所が早期に仕事を再開し、それまでと同様の収入機会を確保することが、実は何よりも被災者にとって重要なことなのである。いつまでも外部からの支援に頼って生きていくわけにはいかないからだ。

「弁当プロジェクト」で被災地に仕事をつくる

完成した弁当。飽きが来ないよう様々なメニューが組み合わされている(柏崎鮮魚商協同組合提供)

そこで紹介したいのが、「弁当プロジェクト」である。これは、災害発生時に被災した地元業者などが連携して、ライフライン企業、ボランティアなど外部からの応援で被災地にやってくる人や、避難生活をしている被災者向けに食事を弁当として提供する事業のことである。

この「弁当プロジェクト」は、2004年の新潟県中越地震の被災地である小千谷市の鮮魚商組合が実施したものに端を発している。小千谷市では当初、被災者への食事提供を新潟県に依頼していた。しかし、遠方から渋滞の中を長時間かけて運ばれた弁当の一部からは異臭がするなどの問題が生じた。このため、小千谷市はなんとか地元で弁当が作れないかと考え、地元の鮮魚商組合に相談したことがきっかけである。

 

身だしなみを整え、アルコールで除菌。食中毒対策には特に気を遣う(柏崎鮮魚商協同組合提供)

プロジェクトの開始は地震から2週間後、受注個数は8000食であった。被災地はようやく水道が使えるようになった程度で、ガスはまだ全域で停止していて、組合員の中には建物が全壊して調理場が使えない者もいた。このような中、わずか20程度の業者で8000食を提供するというのは並大抵のことではなかった。そこで組合では、プロパンガスを使っていた2社に煮炊・揚げ物など火を使う行程を担当させ、他の業者では冷凍食品を詰める作業を行うなどの分業を行った。店舗が全壊した事業者は地元の卸売市場に作業場所を借りた。炊飯は地元の大手米菓企業が一手に引き受けた。このように様々な地域の業者が、被害を受けながらもそれぞれ可能なことを協力して行い、プロジェクトを無事成功させたのである。

このノウハウは、2007年の新潟県中越沖地震の被災地である柏崎市の鮮魚商協同組合に引き継がれた。柏崎の最大の特徴は、行政からのニーズへの対応という形ではなく、市内で弁当の製造が可能な業種組合のほとんどを巻き込んだ言わば「全市体制」で自主的に動き出したことにある。その結果、電力会社やガス協会などライフライン事業者向けの弁当を受注することに成功したのである。仕事をつくるという意味では、被災者向けにこだわる必要はない。弁当プロジェクトは、行政に依存したものではなく地域の自立的な取り組みとして進化を遂げたのである。

お金で買えない価値がある:仕事や地域への誇り

弁当プロジェクトがもたらすのはお金だけではない。小千谷のある事業者はプロジェクトを通じて「息子が後を継ぎたいと言ってくれるようになった」と、プロジェクトの効果を語る。弁当プロジェクトの本質とは、被災者を「お客様」扱いするのではなく、彼らの持つ技能とネットワークを発揮し、自分たちの地域の復興に自分たちで動き出すことなのである。お金はそのことへの対価として与えられるに過ぎない。プロジェクトを通じて得られる自らの仕事や地域への誇りは、お金では決して買えないものである。

経済復興にも必要な地域の「つながり」

「弁当プロジェクト」の仕組みは、何も弁当の枠にとどまるものではない。被災地で必要な物資やサービスはいくらでもある。ラジオ、電池、ブルーシート、衣料、医薬品、マッサージ、保育、等々。こうした被災者のニーズをうまく地元の被災事業者とつなげることが出来れば良いのだ。

但し、弁当プロジェクトのような仕組みを素早く立ち上げるためには、地域の事業者間の平時における連帯や協働が必要なのは言うまでもない。地場産業、地元商店など中小零細事業者が災害時に生き残るためには、地域と一体となってその事業の継続を考えなければならない。「弁当プロジェクト」はそのようなメッセージも我々に伝えている。

(監修:レスキューナウ 文:永松伸吾 独立行政法人防災科学技術研究所 防災システム研究センター研究員)

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