1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災コラム
  5. 利根川堤防決壊の被害想定を公表
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災コラムVol.86

利根川堤防決壊の被害想定を公表

公開月:2006年3月

2008年3月25日、内閣府の中央防災会議は利根川が氾濫した場合の被害想定を公表した。

国内では初めての洪水被害想定

2005年8月、アメリカの「ハリケーン・カトリーナ」による大きな災害が発生し、死者・行方不明者1500人以上、浸水家屋約16万戸、浸水面積374平方キロという被害が出たことは記憶にあたらしい。

日本国内では、1959年の伊勢湾台風以降、死者・行方不明者が1000人を超える水害は発生していない。しかし、2004年に10個もの台風が上陸し、1951年の統計開始以来最高の上陸数を記録したり、時間雨量100ミリを上回るような集中豪雨が多発するなど、大規模な水害への懸念が高まっている。

そこで、中央防災会議では、「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し、大規模水害発生時の応急対策等の検討を行うため、首都圏への影響が大きい利根川を題材に、利根川流域で過去最大の降水量を記録した1947年のカスリーン台風をもとに、想定される死者や孤立者の数、浸水想定時間に関する被害想定をとりまとめ、2008年3月に公表した。
洪水による被害想定としては、初めてのものとなる。

排水施設は機能するのか

大雨の際、雨水を自然排水できないような低地では、街中にあふれる水を排水するために、排水ポンプが設置されているが、大きな河川が氾濫すると、浸水によってそのポンプが浸水し機能しなくなる恐れがある。ハリケーン・カトリーナのときは、8割以上のポンプ場が停止し、ニューオーリンズ市内では43日間も浸水した状態であった。

想定される被害

決壊した天竜川の堤防(長野県伊那市/2006年7月23日撮影)

それでは、利根川が氾濫した場合はどうなるのか。中央防災会議では、カスリーン台風と同規模で200年に1回発生する大洪水により、埼玉県大利根町で堤防が決壊した場合を想定している。

排水施設が稼動しないケースでは、堤防決壊から3日後に約180万人の居住地域が浸水し、東京都江戸川区では3m、足立区や葛飾区でも2m以上浸水するところがでてくる。また、1週間が経過しても、約160万人の居住地域(約310平方キロ)が浸水した状態が続き、排水が進まないために1か月が経過しても、約150万人の居住地域が浸水したままとなることが想定されている。

その一方で、排水施設が全て稼動するケースでも、堤防決壊から1週間後で約20万人の居住地域(約120平方キロ)が浸水し、浸水面積の95%の排水が完了するまでに約3週間もかかると想定されている。

想定されている死者数

また、中央防災会議が行った死者数の想定については、決壊する堤防の位置を変え、いくつかのパターンで試算を行った。その結果、最も被害が大きいのは茨城県古河市の堤防が決壊するパターンであった。

このパターンで避難率が40%の場合、排水施設が稼動しない想定では、死者数は約3800人に達する。また、排水施設が全て稼動する想定でも、約3500人と、相当な被害が出る。これは、浸水区域に高さ5メートル未満の戸建て住宅が多いためである。

避難率を高めるために

土砂災害にも注意が必要(長野県岡谷市/2006年7月22日撮影)

では、避難率が高まったらどうなるのか。避難率80%の場合の死者数の想定は、ポンプ運転がない場合で1300人、ある場合では1200人となっている。2006年に内閣府と国土交通省が、荒川浸水想定区域内の住民を対象に実施したインターネットアンケート調査結果によると、避難率の平均値は46%とされていることから、今回の想定は40%をベースにしている。しかし、過去の災害での避難率は、2004年の新潟豪雨で19%(新潟県見附市)、同年の台風23号による豊岡水害で33%(兵庫県豊岡市)と、必ずしも高い数字ではない。避難率を高めるには、水害の切迫性を伝える各種情報提供や避難勧告等を効果的なタイミングで行うだけではなく、洪水ハザードマップの整備や避難訓練の実施、また、住民も普段からの備えや心構えが必要となる。

自宅に取り残される可能性も

今回の想定では、避難できずに取り残された人の数についても試算を行っている。
埼玉県大利根町で堤防が決壊し、警察、消防、自衛隊が関東地方に有する全てのボート数(約1900艇)に相当するボートを用いて救助活動を実施した場合で、避難率を40%として、排水施設が稼動しないケースでは孤立者は最大約64万人。そのうち約48万人が救助を必要とされる人で、救助の完了は14日後。排水施設が全て稼動するケースでも、孤立者は最大約48万人。そのうち救助を必要とする12万人の救助完了が4日後と想定されている。

気象災害は事前の備えが有効

今回の想定結果をもとに、国では今後も被害軽減を図るため広域避難体制、孤立者の救助体制等の検討を行い、大規模水害対策をとりまとめる予定である。

異常気象により、これまで想定してこなかった規模の災害に見舞われる可能性が懸念されている。ただ、気象災害は地震と異なり、事前に準備ができる猶予がある。いざというとき、どこから情報を入手すればよいのか、どのような行動をとればいいのかなどを話し合い、来るべき災害への心構えを十分に養うことが重要である。

(監修:レスキューナウ 文:渋谷和久 国土交通省九州地方整備局総務部長。内閣府防災担当企画官などを経て、2006年7月より現職)

copyright © レスキューナウ 記事の無断転用を禁じます。

会社概要 | 個人情報保護方針