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防災コラムVol.78

施設を訪ねる「根尾谷地震断層観察館」

公開月:2006年3月

M8.0の巨大直下型地震により地表に出現した断層が、100年以上の時を越えて伝えるのは何か。

災害を風化させない施設

岐阜県本巣市根尾に、日本三大桜に数えられる「根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら)」がある。樹齢1500年余とされ、枯死や伊勢湾台風の被害を乗り越え、開花時期には多くの観光客の目を楽しませているが、この巨木も大きく揺らいだのが、今から100年以上前に発生した濃尾地震。マグニチュード8.0は日本列島内陸で観測された史上最大規模の巨大直下型地震である。

日本全国にある災害関連施設の訪問記、第4回は、淡墨桜から直線で2kmほど南にある「根尾谷地震断層観察館」を訪ね、阪神淡路大震災をはるかに上回るエネルギーを放出した活断層を目の当たりにした。

阪神淡路大震災の約30倍近いエネルギー

人形のサイズからもわかる圧倒的なズレ

濃尾地震は1891(明治24)年10月28日午前6時38分に発生。岐阜地方気象台の地震計の針は振り切れ、地震動は九州や東北でも観測。岐阜県を中心に、愛知・滋賀・福井の各県に甚大な被害をもたらした。
震源に近い大垣市では家屋の約9割が全半壊、岐阜市では家屋の約6割が全半壊したのに加え、約3割が火災で焼失するなど壊滅的被害を受けたほか、名古屋市内のレンガ造りの建物が多数崩壊、長良川鉄橋が落下するなど、欧米近代建築施設のもろさも露呈することとなった。被害総計は死者7,273名、負傷者17,175名、全壊家屋142,177戸に上り、「身の終わり(美濃・尾張)地震」とも揶揄されたという。

この地震で震源の根尾村(現本巣市)水鳥地区一帯を中心に地表に大きなずれ(断層)が出現。調査の結果、愛知県から福井県に至る延長約80kmに及ぶ断層が確認され、地表出現部分について根尾谷断層と名づけられた。最大左右8m、上下6mのずれが生じたが、1995(平成7)年発生の兵庫県南部地震(M7.2 阪神・淡路大震災)の地震源となった野島断層は地表出現部分で左右2m、上下1mであったことからして、エネルギーの巨大さが実感できるだろう。なお、根尾村ではほぼ全家屋が全壊し死者140人以上、至るところで斜面崩壊が発生し山の姿が変わってしまったとされている。

根尾谷断層の出現、そして欧米近代建築の問題点の明確化は、地震研究を大きく進展させるきっかけとなった。明治政府は地震学や耐震工学を進めるべく翌1892年、文部省内に震災予防調査会を設立。1923(大正12)年9月発生の関東地震(関東大震災)を受け1925年に設立された東京大学地震研究所によって更に研究が深められることとなった。また、地震発生直後の根尾谷断層の記録写真は海外でも広く紹介され、多くの外国人地震研究者が同地を訪れるなど、国内外の地震研究の出発点としても過言ではないだろう。

100周年記念で整備

1世紀を越えて残る断層の跡

根尾谷断層は1927年に国の天然記念物に、1952(昭和27)年には特別天然記念物に指定されたほか、2007(平成19)年5月には日本の地質百選にも選定されている。その一方で時代の変遷につれ、雑草が生え、風雨に崩れ、また人為的に整地されるなどしてその姿を変えるようになっていた。
根尾村も過疎化が進行、地域振興策の検討に迫られていたことから、100周年を迎えるにあたり、1988(昭和63)年から歴史遺産としての恒久的保存を目指し専門家を交え検討。結果、断層を掘り下げて真横から断面を観察できる溝(トレンチ)を中心とした「根尾谷地震断層観察館」が整備されることとなり、1992(平成3)年3月に地下観察館が、翌年には地震資料館がオープン。オープン初年で8万人の入館者を集めた。1998年には地震体験館も併設、阪神・淡路大震災などの地震災害が連続したことなどを受け、2001年には累計入場者数が50万人を越えている。

水鳥駅の先に見えるピラミッド型の観察館

車窓からも特徴的な建物が見える地震断層観察館は、最寄り駅の樽見鉄道水鳥駅から歩いて2分。下り坂を歩いていくが、振り返るとこれが根尾谷断層であることに気づかされることとなる。
施設は大きなピラミッド型屋根の地下観察館と円柱形ドームの地震資料館・体験館で構成。まず地下観察館に進むと、すり鉢状に深く掘り下げられた断層の断面が眼前に飛び込んでくる。黒とねずみ色の地層がスパッと切れるように段差がついていることがありありと見て取れる。垂直に8m掘り下げられているが、最下部に置かれている人形がそのエネルギーの凄まじさを実感させてくれる。
地震資料館・体験館では、ホールで「根尾谷の自然」と題された地域の自然の風景と人々の暮らし、そして濃尾地震の発生状況等の紹介ビデオが流されているほか、濃尾地震および出現直後の根尾谷断層を撮影した多くの写真や各種文献、日本・世界の大規模地震災害の状況について模型などを活用するなど、多彩な展示がなされている。地震体験館は3Dシアター、シートベルトを締めた上で震度4相当の揺れと迫力ある映像で体感するというものだ。

観察館を出ると、改めて眼前に根尾谷断層が広がる。発生直後の土砂がむき出しとなった写真を脳裏に思い浮かべつつ、115年以上もの時の流れがありながら断層であることがはっきりと判る、それでいて周囲の長閑な自然の風景に溶け込んで現状を目の前にして、しばし言葉を失ったのだった。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター専門員 宝来英斗)

◆施設詳細とアクセス
「根尾谷地震断層観察館」の開館時間は9:00~17:00、休館は毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)および年末年始。4月は無休。入館料は大人500円(小人250円)で、併設の地震体験館は別料金(大人小人共200円)。断層帯は無料で見ることができる。なお淡墨桜まで車で10分程。

公共交通の利用は、JR大垣駅から樽見鉄道線で約1時間、終点1つ手前の水鳥(みどり)駅下車、徒歩3分。淡墨桜は終点樽見駅下車、徒歩20分。
自動車の利用は、岐阜市内から国道157号線で、東海北陸道関ICから国道418号線で、それぞれ約1時間。なお、淡墨桜開花時期は大渋滞が発生する。

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