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防災コラムVol.46

施設を訪ねる「セーフティーしがらき」

公開月:2006年2月

滋賀県甲賀市にある開設から10年を迎えた「セーフティーしがらき」は、42人死亡、614人が重軽傷を負った列車が正面衝突した大事故を記憶に刻む施設だ。

災害を風化させない施設

事故現場付近。複数の慰霊碑が建てられている

滋賀県南部の甲賀市。甲賀忍者の郷として知られ、東海道水口宿(みなくちじゅく)からもほど近い貴生川(きぶかわ)駅で電車を乗り換える。1両編成のディーゼルカーは出発後、南西方向に進路をとり、ぐんぐんと坂を上り始めた。

日本全国にある災害関連施設の訪問記、第2回は滋賀県甲賀市信楽町にある、今年(2007年)開設10周年を迎えた「セーフティーしがらき」。1991年に発生した信楽高原鉄道の列車正面衝突事故の資料スペースである。

 

陶芸の森に残る記憶

事故は5月14日午前発生した。信楽からの高原鉄道車両と、京都からのJR西日本の直通快速車両が単線上で正面衝突し、乗客37人、乗員5人の42人が死亡、614人が重軽傷を負った。10人以上の死者を出す鉄道事故は、1972年の北陸トンネル火災事故の30人以来となる大惨事であった。

事故原因は、信号機の不具合に端を発する運行管理上のミスが重なったものとされている。当時信楽で開催中の「世界陶芸祭セラミックワールドしがらき’91」の観光客を輸送する対策として、JR西日本との直通快速列車が企画され、高原鉄道線の中間地点に列車が行き違うための信号所を設置したものの、その信号機の設定において高原鉄道とJR西日本の双方が互いに無断で改造工事をしていた上、事故前にも発生していた不具合に対して適切な処置が取られていなかったのである。

遺族が究明の会議設立

セーフィティーしがらき。事故車両の部品を保存

当時、事故調査は警察を主体とする刑事責任の追及のための捜査が優先されると共に、鉄道事故についての原因調査を行う専門組織がなく、状況調査や結果が遺族などに示されることはなかった。また、JR西日本は自社の過失を認めず、遺族への謝罪もなかったとされる。刑事裁判では1992年12月に高原鉄道の運行管理責任者ら3人が起訴(2000年執行猶予付きの有罪判決)された一方、JR西日本関係者については事故の直接責任が立証されず不起訴処分となっている。

こうした状況を受け、遺族を中心に事故原因を究明するため、1993年8月に「鉄道安全推進会議」(TASK)が設立され、事故車両や施設の保存などを訴えると共に、同年10月に高原鉄道・JR西日本を被告とする民事裁判を提訴、1999年の大津地裁判決で両社の過失が認定された。しかしJR西日本は過失責任を否定し控訴、法廷闘争が展開されたものの、2002年の大阪高裁判決も同社の過失を認定、同社は上告せず、ついに遺族に謝罪するとともに安全対策を確約することとなった。

「セーフティーしがらき」は1997年4月に信楽駅舎内に開設された。事故を風化させてはならないとの遺族の希望を受け、事故の部品などが展示されている。なお、2001年の国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の誕生について、TASKの活動が端緒となったことも忘れてはならない。

ひしゃげた部品が語る事故の衝撃

信楽駅。駅舎内外でさまざまな狸が出迎える

貴生川から一気に高度を稼いだ列車はやがて林間へ。途中、信号所を通過。事故後使われていないものの、施設は保存されている。その後左カーブを切ってしばし、紫香楽宮跡(しがらきぐうし)駅に到着。ここでまず下車し、先ほどの左カーブ地点へ…ここが事故現場。林間とあって見通しは良くない。付近には何種類かの慰霊碑が建てられている。

終点の信楽駅では、向かいのホームに大小さまざまな狸たちが出迎えてくれる。改札を出て左側、狸の置き物などが売られている売店の一角が「セーフティーしがらき」のコーナー。ガラス棚の中に事故車両の部品が数点展示されているのだが、さび具合に時の流れを感じると共に、ひしゃげた形に事故の衝撃をうかがい知ることができる。「ご遺族の強い要望により、二度とこのような列車事故を起こさないという思いと事故の風化を防ぐため、ここに展示するものであります」と添えられた言葉が重い。

利用者に見られる場所にある意義

航空業界では2006年に日本航空が「安全啓発センター」を、2007年には全日空が「安全教育センター」を開設、航空機事故の部品などを展示し、社員の安全教育に役立てるとともに一般公開もされている(事前予約制)。

そしてJR西日本も2005年4月の福知山線脱線事故を受け、今年4月に「鉄道安全考動館」を開設したが、一般公開は当面行わないという。更には信楽高原鉄道事故のパネル説明に不備があるとして、高原鉄道が文書で抗議を行ったとも報道されている。

高原鉄道は事故で職員5人と車両2両を失った上、膨大な負担を背負った。その中で、地元を挙げて「鉄道安全宣言の町」として運行を再開させ、車両や運行システムに事故対策を手厚く盛り込んだ。その上で、自社で起きた事故の資料が一般の利用者も目の当たりにすることができるのだ。駅舎内で展示されているセーフティーしがらきの存在は、特筆に値しよう。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター専門員 宝来英斗)

◆施設詳細とアクセス
「セーフティーしがらき」の開館時間は信楽駅舎内、毎日8:40~17:00。無休、無料。駅前では高さ5mの巨大な信楽焼の狸が出迎えてくれる。世界でも数少ない陶芸の複合施設である滋賀県立陶芸の森は駅からバスで5分ほど。

事故慰霊碑は紫香楽宮跡駅から北方に徒歩5分ほど。聖武天皇が手掛けた幻の都ともされる紫香楽宮跡も徒歩圏内。

公共交通の利用は、信楽高原鉄道のほか、JR琵琶湖線石山駅~信楽駅間に帝産湖南交通の路線バスがある。信楽駅周辺の観光利用には信楽高原バスが便利。

自動車の利用は国道307号線利用が基本。名神高速からは草津田上、瀬田西、瀬田東、栗東の各ICから、名阪国道からは壬生野ICから、それぞれ約30分。

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