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防災コラムVol.21

震災時のエコノミークラス症候群を考える

公開月:2006年1月

血栓は自動車内で寝泊りする避難者だけでなく、避難所の生活者にも見られることがある。水分補給や手足を伸ばすなどして血栓ができづらくする工夫が欠かせない。

震災2年後でも血栓

新潟大学で行われた下肢静脈の調査

2004年の新潟県中越地震では自動車内に寝泊りした避難者と「エコノミークラス症候群」(静脈血栓塞栓症)との関連が注目を浴びた(注)。脚などにできた血栓が肺動脈などに詰まると、最悪の場合、死に至ることがあり、飛行機の狭い座席に長時間座っていると発症しやすいことから一般的にこのように呼ばれている。エコノミークラス症候群に関連して、被災地小千谷市で2006年10~11月に行われた調査は注目してよい。 2005年に血栓が見つかっている82人を含めて313人を対象に下肢静脈を調べたものだ。同年に血栓が見つかっていた82人のうち21人(25.6%)に再び血栓が見つかった。また、2006年に初めて検査を受けた231人のうち、11人(4.7%)に血栓が見られた。これは震災の影響がない山間部の多雪地域の血栓保有率(1.8%)の3倍近い数字だ。震災の影響は続いており、また2005年に血栓が見つかった人の4人に1人は依然として血栓が残っていることから、一度できた血栓は消えにくいことが分かる。

避難所生活でも血栓

新潟県中越地震の際の仮設避難所

2005年の検査では、車中泊避難を経験せずに避難所にいた人にも血栓が見つかっている。この慢性化した血栓は、普通乗用車と軽自動車に泊まった人では、避難所にいた人よりも約1.5倍多かった。しかし、車内が部屋のようになるワゴン車に泊まった人は、避難所にいた人の約4割しか血栓が見つかっていない。これは避難所でも窮屈な姿勢が長いと車中泊避難と同じように血栓ができることを示している。

 

血栓は車中泊に関係ない

新潟県中越地震ではエコノミークラス症候群と車中泊避難との関連が報道された。確かに震災後2ヵ月以内の車中泊避難はエコノミークラス症候群との関連が認められ、震災直後の検査で見つかった血栓とも関係が明らかだった。しかし、2005年の検査で見つかった慢性化した血栓は、車中泊避難とあまり関係が認められなかった。

一方、2005年に見つかった血栓は、データ比較のために調査した震災の影響のない山間部の多雪地帯の住民よりも多く、慢性化した血栓は震災の影響と思われる。避難の形態に関係なく、本震や約1000回の余震によるストレス、ライフラインの被害によって不便になり、脱水による血液の濃縮などで血栓の危険性が高まっていたためと考えられる。血栓は普段に近い生活であれば大半は自然に消えるが、一部の消えにくい人が車中泊避難したことで、血栓が増大してエコノミークラス症候群になったと思われる。

水分補給や手足の伸びを

震災後の生活は血栓ができやすいが、血栓は治療よりも予防が重要である。震災後は後片付けなどにとらわれて、ノドの乾きを忘れがちになったり、トイレを控えようと水を飲むことを我慢していると、血液が濃縮して血栓ができやすくなるため、極力水分を補給するようにしたい。また、なるべく手足を伸ばして生活すること。窮屈な姿勢を長時間とっていると、たとえ避難所でも血栓はできやすくなる。やむをえず窮屈な姿勢でいなければならないときは、4~5時間おきに運動しよう。歩くだけでも効果的だ。よく歩く人は血栓が少ないことがアンケート結果で分かっている。また、震災後はストレスなどで不眠になりがちだが、窮屈な姿勢を強いられる状況で睡眠薬を使うと、静脈血流が圧迫されて、血栓ができやすくなることがあるため、睡眠薬を使用する場合は注意が必要だ。

弾性ストッキングの着用を

災害の有無に関係なく下肢静脈に血栓ができることがある。多くは立ち仕事や屋外仕事の人、足に静脈瘤がある人などは日常的に血栓ができやすく、震災後の悪条件でより血栓のできる危険性が高まる。日頃からひざまでの弾性ストッキングを着用することを勧める。足の血流をよくするために履くもので、通常のストッキングに比べて足の締め付けが強く、効果は抜群である。足を締め付けると血流が悪くなると思われるかもしれないが、立っている時は足の静脈は流れが悪く、動脈の流れも悪くなる。弾性ストッキングは締め付けることで、ふくらはぎに貯まっている血液を絞り出して血流をよくする。

水・食料・トイレの確保を

新潟県中越地震ではライフラインや道路、交通などが途絶し、復旧には週単位の時間が必要だった。こうした場合、食料や水が被災者全員に行き渡るまでは3日以上かかっている。したがって、防災関係機関も呼びかけているように、個人で3日間は耐えられるような水と食料を備蓄しておく必要がある。さらに下水道に支障が出ると汚水を流せなくなるため、水洗トイレは壊れていなくても使用不能となる。そこで簡易トイレやポータブルトイレを用意しておきたい。汚れがちな公的な仮設トイレの使用をためらい、水分を制限したためエコノミークラス症候群になった人もいる。トイレの備蓄はエコノミークラス症候群の予防にも重要である。さまざまな方法で血栓ができづらくするような工夫を心がけてほしい。

(監修:レスキューナウ 文:新潟大学大学院呼吸循環外科 榛沢和彦)

注)静脈血栓塞栓症は、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症を併せた概念だが、このコラムでは一般的に知られる「エコノミークラス症候群」を用いる。

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