日体幼稚園 川原たみ 教頭先生
東急桜新町駅から徒歩10分、閑静な住宅街の中にあります。日体幼稚園をご紹介します。日本体育大学の系列幼稚園です。
思いっきり遊ぶ
日体幼稚園は「幼稚園に健康教育を」という主旨のもとに、昭和30年に日本体育会によって設立されました。幼稚園生活の基礎となるのは健康であり、私たちは子ども達の“心身の健康”を第一目標としています。
今はご近所で幼児が、安全に力いっぱい遊べる場所が少なくなってきています。私たちの園では、週2回午後、園庭開放をしています。子ども達は、午後友達と遊びたくても電話で約束してからでないと遊べなかったり、帰りがけに制服を着たまま近くの公園で遊んでいると聞いて、園庭開放を始めました。開放日は週2回ですが、みんなギリギリの時間まで遊んでいます。危険な物がないですから安心して遊べます。この幼稚園は園庭でどろんこOKの幼稚園なので、水まき放題、砂まき放題です。園庭開放もその延長でやっていますので、午後は私服に着替えて遊んでいいですよと言っています。最初の頃は先生達も時々園庭に様子を見に行って、お片づけの仕方などを注意しましたが、今は自発的にお砂場の道具をきれいに洗って片づけることができるようになりました。お母さん達の「井戸端」にもなっています。
初代の園長先生は、この時期に思いっきり遊ぶことが大切だと考え、入園式に「骨折を恐れて遊ばないというのは、やめた方がいい。」とよく言われていました。今保護者の方にそれを言うと驚かれてしまいますが、「骨折を恐れて、高い所から飛び降りたり、木の枝にぶら下がったりするのを止めさせないで、思い切りやらせなさい」と言われました。そうすると、どうやったら手をつけるか、どうやったら顔でぶつからないかがわかってきます。そういうことをいっぱい経験させなさいと言われていました。
私も若い頃、東京都内の狭い所で、思い切り体を動かすにはどうしたらいいだろうかと、いろいろと体操を作らせていただきました。軽いアレーをおもちゃにして使う体操ですとか、縄跳びやフープなどを使った体操などで、1メートル四方の場所があれば、思いきり体を動かせるものです。
健康第一、徒歩通園
この園は、徒歩通園が基本です。ところが、今は遠くからいらっしゃる方が多くて、徒歩の方が4分の1くらいです。4分の2が自転車通園。自転車を使うのは、大人の足で20分以上かかる範囲と決めています。健康第一を目的としている幼稚園なので、できるだけ手をつないで、徒歩で登園してくださいとお願いしています。歩きながら、「今日は暑いわね。」とか「こういう日は喉が渇くね。」とか、「風が気持ちいいね。」とかという会話が大切だと思っています。あと、残りの4分の1が、電車、バス通園です。あちらこちら幼稚園を見て歩いて、自分の家庭の方針と幼稚園の方針が一致すると思われた方達が、遠くから通って来てくださっています。
「自由保育」と「けじめ」
園長も私も同じ考えで、「砂場からすべてが始まる」と思っています。それは有名な先人の方達もおっしゃっていることですが、砂場1つでいろいろなことが発展します。遊びも友人関係も、泥の貸し借りも。いろいろなことが学べます。結構けんかもしています。私達はしばらくはそっと見ていて、どうしようもなくなったときになって声をかけます。お互いの主張をしっかり聞いてあげると、それでもうけんかは終わりになるんです。体験を通して自分をコントロールすることを学び、協調性、社会性、責任感などが育っていきます。

遊ぶときにはどろんこになって本気で遊んで、終わったらサッとみんなでお片づけして、けじめをつけさせます。1日中遊びたい子には、本当は遊ばせてあげたいのですが、小学校以降の日本の社会のことを考えるとそうもいきません。小学校は、チャイムで始まり、チャイムで終わります。さっとけじめをつける習慣がない子は、チャイムが鳴って授業が始まってもフラフラしているというお話を聞きます。近くの公立小の校長先生から、チャイムが鳴って一番初めにボールを持って飛び出してくるのも、チャイムが鳴って、急いで走ってきて授業の準備ができるのも、日体幼稚園出身の子ども達だと聞きました。やはり経験というか、思いっきり遊ぶ、思いっきり勉強するタイミングを上手につかんでいるのだと、自負しています。その点ではうちの卒業生は褒めていただいています。集中できること、そして集中力を持続できるようになるという経験を、幼稚園生活のなかでしてもらえたらと思っています。
自由保育日
月1回土曜日に「自由保育日」というのを設けています。自由保育日は、制服でなく私服登園です。お父さん達が送っていらして、子ども達もうきうきして楽しそうです。泥とかボンドとかついてもいい格好をさせてきてくださいと言うのですが、みんなおしゃれして来ます。それで泥だらけになって帰っていきます。
私達は普段、どろんこになって遊べるように、動きやすい服装ですが、自由保育日はおしゃれしてきなさいと先生達にも言っています。保育室で朝の挨拶だけして、後は好きな所で遊びます。工作のコーナーとか、どろんこ遊びのコーナーとか、トランポリンとか、昔の遊びとか水彩画とか、いろいろなコーナーを作っていて、子どもが自分で選択し、1日中自分のやりたいことをやります。冬には編み物のコーナーも人気です。指編みでマフラーを作ったりします。編み物をして、工作をして、どろんこをしてと渡り歩く子もいますし、ただ外でボールを蹴っている子もいますし、ずっとトランポリンをやっている子もいます。どこも先生が一応バックアップしてあげていて、それとなく見ています。
泥だんごのおみやげ
最近私が気になっていることは、世間一般に子どもに関わり合い過ぎる親が多くなってきたということです。親の理想どおりに型にはめようとして、過干渉だったり厳し過ぎたり。
子ども達が型にはまってくるのは、高校、大学くらいで、それでも型にはまっていない子どもはいます。幼稚園の時期は、時には丸かったり、時にはふにゃふにゃだったり、そういうことを繰り返しながら練れて、だんだん大人になっていって、形になるのだと思います。お母さんの頭の中には理想がいっぱいあるでしょうが、幼稚園のときに、四角とか丸とか三角とか、決めてほしくないと思います。昨日までこの遊びは嫌だと言っていた子が、今日は思いきり遊んだりします。大人の予想どおりでないことの方が多いのです。
親が描く理想の子育てと、現実の環境のギャップが大きいこともあります。小さいうちは親の理想の環境を整えられても、幼稚園や小学校という社会に入ったときに、子どものショックが大きいといったことも多々あります。理想ばかりでは、現在の日本の世の中では、子どもは生活できません。
簡単には乗り越えられないことにぶつかることもあります。いじめの問題などもその1つでしょう。親としてはなんとか問題のある環境から逃げることができないかと考えてしまいますが、柔軟な対応で乗り越えることができることもあります。私自身が子育ての経験から学んだことなども若いお母さん達に伝えていきたいと思っています。
親が理想どおりに育てたいと思って関わり過ぎている子どもこそ、「どろんこ遊び」が必要だと私は思っています。子どもは砂場でストレスを全部発散できますから。この幼稚園ではお砂場用のたらいにはいつも水がいっぱい汲んであります。そのたらいの所でずっと水で遊んでいる子ども達がいます。やったことがないから楽しいんです。お家では汚れる遊びはなかなかやることができません。幼稚園では、服を汚しても濡らしてもどんどん着替えさせてあげます。大きいたらいから小さいたらいに水を汲んで砂場に持ってきて、山を作って水を流したり、泥だんごを作ったりしています。作った泥だんごはあちこちに隠してあります。上手にできたのを持って帰ったりもします。お母さん達も最近は理解してくださっていて、泥だんごが玄関前に10何個並んでいますよ、とか言われます。ただ水をいじっていたのがだんだん発展して、泥だんごを作るようになって、さらに固くなるように工夫したり、そういう楽しみにつながっていきます。子ども達は、私達が何も教えなくても、友達を見たり、大きい子を見たりして、学んでいくことが結構多いのです。先生に作り方を教えてもらうより、子ども同士で教わることの方が何倍も力になります。
自由保育のときの工作もそうです。おかあさん達に協力していただいて、いらない箱とかいろいろな物を、段ボールの中に入れておいてもらっています。それを材料にして友達と一緒に自由に工作をします。先生達が指示して工作をする時よりも、よほど楽しそうです。途中で壊れそうになっているのに、何回も何回もガムテープを貼り直したりして一生懸命作っています。やはり友達同士で学び合うのは大きいんだなと感じます。
「自由保育」といっても、一人ひとりが自分勝手にわがままに遊ぶのが「自由」という意味ではないと思います。みんなと協力して遊ぶ楽しさと同時に、みんなと一緒だから我慢するということを学び、我慢した後に得る喜びとか力を合わせる喜びを感じて、友達といっしょに成長していってほしいと思います。幼稚園での友達とのかかわりの中から、社会生活の基礎を身につけていくことができるでしょう。
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