國學院幼稚園 尾高敬三 園長先生
イッツコム放送センターのある「たまプラーザ駅」からバスで5分。國學院幼稚園にお伺いしました。一昨年、学業の神様を祭っている湯島天神の宮司様とお話しする機会がありました。その時、日本で数少ない日本古来の伝統宗教である神道学科が國學院大學にはあると教えていただきました。
園長は泥んこを受け止める格好で
私は幼稚園ではいつでも普段着でいます。子どもが朝、門から「園長先生」と飛んできたとき、できれば抱えてやりたいですから。握手するのももちろんいいのですが、抱えて「今日も元気に遊ぼうね」と言うと、「うん」と言って満足して走っていきます。これが幼稚園だろうと思っています。泥んこの足で来ますし、逆上がりなんかも、私の足から膝から胸元を蹴りながらポンと、そうして覚えていきます。泥んこの子ども達を受け止めるためには、背広ではいられません。
幼稚園は子どもを中心に考えて、保育者が対応していかなくてはいけません。ここの幼稚園は特にそのことを考えています。子どもに媚びるということではなく、いけないことはいけないと、しっかり言わなければいけませんが、大切なことは、子ども一人一人をいとおしく思ってやるということでしょう。子どもの感性も性格も、顔が違うように一人一人みんな違います。その一人、一人の違いを理解して対応してあげるということが、一番大事なことだと思います。
心をつなぐ「徒歩通園」「お弁当」
國學院幼稚園は、学校法人國學院大学によって昭和44年に設立されました。たまプラーザ周辺が急速に都市化され始めたころです。大学のキャンパスが幼稚園のすぐ向こう側にあります。
初代の小林武治園長は、「明るく、元気で、素直な子どもの育成」を教育方針に掲げて、日本のモラルや伝統行事を大切にした保育の実践を強調されました。この園は、開園以来一貫して子どもの遊びを中心とした体験的学習を基本にしています。

私は開園のときからずっとこの幼稚園に関わってきましたので、園長を引き受けました。
開園当時すでに車社会になりつつあり、園児の登降園にバスを使うかどうか検討したとき、私はまだ若かったものですから、これからの時代はバス通園がいいのではないかと考えました。しかし初代園長は、お母さんと手をつないで行き帰りをすることは、お母さんのためにも大事だし、子どものためにもかけがえのない体験だと考え、徒歩通園は幼稚園教育の1つの柱だと考えたのです。幸いなことにこの園の用地は、狭いけれども住宅地の真ん中にあります。
子どもを育てるというのは、子どもと心をつなぎ、心を通わせること。初代園長はこれが子育ての基本だと言われました。「お母さんの手の掌(たなごころ)の温かさを一生覚えていられる子どもというのはきっと幸せだよ、それを体験させてあげる幼稚園作りをしようじゃないか」と言われ、私は納得しました。園児募集は苦労するかもしれませんが、どんなに世の中が変わっても、子どもをいとおしく思う親の気持ちというのは変わらないはずですし、私たちの考えが理解されれば、この幼稚園を慕って、この幼稚園に子どもを預ける人達がいるはずだと考えたのです。
お弁当については、もうその頃から幼稚園でも「給食」ということが言われていました。それは幼稚園経営の1つの考え方です。給食があればお母さんは楽です。でも、これも初代園長は「子どものお弁当は本当に少しなのだから、お母さんが作ってくださったお弁当を持たせてもらうのが一番いい。」という意見でした。子どもがお弁当をみんなで食べるときに、お母さんが作ってくれたお弁当の中に、自分の好きなものを見つけたら、子どもの心の中に、「お母さん」という気持ちがパーッと広がるはずです。これが親と子の心のつながりとなり、親に対する感謝の気持ちが、そこで生まれてきます。
3つの指導目標
明るくのびのびとした子に 元気で根気づよい子に 素直でありがとうと言える子に
明るくのびのびとした子に
子どもは本来明るく伸び伸びしているものです。そして、私達は遊びが子どもの学習だと考えています。子どもが主体的に自分から好んで遊ぶことを理想としています。遊ぶことを見つけて、小さなことでも繰り返し、繰り返し一生懸命遊びます。それが子どもとして大事なことですので、明るく伸び伸びとした姿を消さないようにしなくてはいけません。最近、子どもの「遊ぶ力」が低下している、「遊びを作る力」が足りない子どもが増えてきた、とも言われています。遊びは子ども達に人間学習をさせる大切な活動であり、遊びは人情の機微を育み、人と人との関係力や対応力に磨きをかけ、分別や理性を形成する大切な学習なのです。
元気で根気づよい子に
健康ということは、人間としての一番の基本ですし、元気な子どもになってほしいと思います。ただ、これからの社会では元気で健康なだけはなく、根気強さが求められるでしょう。これからグローバルな社会になっていきますし、世の中が変わり発展をしていくと、力強い精神力というものが必要になってくると思います。集中力とか根気強さが求められる世の中になってきていますから、それを育んでいかなければいけないでしょう。
素直でありがとうと言える子に
人間は人と人とのつながり、関わりをもって社会の中で生きているわけですから、素直に感謝する気持ちを持っていなければいけません。もう少し言えば、子どもは親に世話をしてもらって育つわけですから、世話をしてくださる両親に素直に感謝する、お世話になった人に感謝するということが大切でしょう。そして、そういう親を育てたのは、おじいちゃん、おばあちゃんで、悠久の世界から我々の命はあり、無限に広がりがあるのです。そういう、祖先に感謝するということも必要です。もう1つは、自然の恵みに素直に感謝することです。自然の中で生活していることの喜びを感じ、素直に感謝できる心を持つことです。
この3つの目標は、言ってみれば単純なことですが、実際にこれを実践していくのは、なかなか難しいことです。これらの目標を年少、年中、年長とそれぞれの教育課程の中に織り込んで、一人一人の子どもを育んでいくことを幼稚園の目標にしています。
今2クラスずつで6クラス、186人の園児達がいますが、これくらいの人数だと保育者は学年やクラスを外れて、すべての子どもに同じように関わることができます。だから、顔と名前はもちろんのこと、その子のおよその性格など、約190人の子どもをきちんと理解する保育ができないといけないと思っています。そして幼稚園の保育者みんなが、一人一人の子どもを、心から愛していとおしく思っています。これが規模が大きくなるとなかなかそうはいかなくなってきます。
開園のときからここには、子ども一人一人を大切にしようという気持ちが本当に強い幼稚園です。だからでしょうか、卒園生がよく訪ねてきてくれます。徒歩通園なので特にこの近くの卒園生が多いこともありますが。大人になってからも幼稚園を訪ねてきてくれます。涙が出るほどうれしいことです。
「明浄正直」(みょう じょう しょう ちょく)
「明るくのびのびとした子に」「元気で根気づよい子に」「素直でありがとうと言える子に」という目標は、神道の考え方の基盤の上にあると言ってもいいと思います。「明浄正直」という言葉があります。明るく清く、正しく直(なお)く。この言葉は、平安時代初期の『続日本紀』という歴史書に出ています。簡単に言うと、日本人は、清く明るく、正しく直き心を持って日常生活を送ることが大切だということが書いてあるのです。このことは古い時代から伝えられてきた日本人の基本的な考え方、日本の伝統的なモラルと言えるでしょう。
神道というのは、教典を持った宗教ではありませんから、何か書いたものがあるというわけではないのですが、日本人が心掛けなければいけないことは何か、ということが、『続日本紀』の中に出ているのです。
日本の伝統行事を取り入れて
國學院の幼稚園ですから、日本の伝統行事を、精神的な情操教育の一環として、保育行事の中にできるだけたくさん取り入れたいと思っています。節分には豆まきもたくさんしました。私も鬼のお面をかぶって鬼の格好をして、悪い病気を退散させるための鬼の話や日本のいろいろなお話をしました。いろいろな行事をしますが、毎年お父さんに加わっていただき餅つきをします。昨年は豊作を祈願した古謡を歌っていただきました。そしてお米を大切にして感謝するお話をしました。夏には大学のグラウンドで花火大会や盆踊りを行います。この地域の風物詩になっていて、地域の方達にも喜んでいただいているようです。

発表会や子どもの観劇会は、國學院の幼児教育専門学校の広いホールを借りて行います。
もちろん正月は門松を立てますし、暮れには餅つきもします。12月のクリスマスにはツリーも立てます。國學院だからクリスマスはやらないというのではなく行事を通じて子どもの優しさを育むという考え方です。
子どもに教わる保育者に
幼稚園では子ども達に、宗教教育は特別にはしていません。幼児教育というのは、人間性の涵養にあると言われています。それは、子どもを人間として、人格として認めることから始まるでしょう。子どもと同じ視点に立ち、子どもが育っていくのを楽しみ、そして自分も高めていくことが大切です。それは園長も職員もみんな同じです。「子どもに教えられる」ということが、確かにあります。ハッとすることがあります。職員には、子どもと楽しく過ごすと同時に、子どもに教わるという謙虚な気持ちを忘れないでほしいとよく言います。そういう気持ちで接しています。子どもと共感し合うことが大切です。子どもにうれしいことがあったら、保育者は手を取り合って、子どもと一緒に小躍りして喜びます。子どもに悲しいことがあったら、そっと肩を抱いて、共に涙を流します。そういう感性を持った保育者でありたいと思います。それは、子どもが一番よくわかっています。子どもに響くんです。そして生涯覚えています。あの先生にお世話になったと言って、卒園生が園に来てくれます。
この時期に、親や保育者に甘えることができ、いつも心が通い、見守られているという安心感と信頼感があれば、子どもは元気にのびのびと活動します。夢中になって遊びながら根気強くなりますし、積極的な活動を通じて意欲的な子どもに育っていくでしょう。
これからも國學院の理想のもとで人生の基礎を培う幼稚園でありたいと思っています。
(2006年2月9日 國學院幼稚園にて)
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