松沢幼稚園 進藤君枝 園長先生
京王線「上北沢駅」からすぐのところにあります松沢幼稚園にお伺いしました。
昨日が運動会だったそうです。「平日にもかかわらず、大変多くのお父さんが応援に来てくださり、時代の流れを感じます」と園長先生はおっしゃっていました。
賀川豊彦と自然教育
松沢幼稚園は、1931年(昭和6年)に賀川豊彦がつくりました。賀川は、キリスト教の伝道と社会奉仕を目的として、1909年(明治42年)のクリスマスイブに、神戸新川地区のスラム街で社会福祉事業の活動を始めました。そこで賀川は人格形成において乳幼児からの教育の必要性を痛感し、当地に松沢幼稚園を設立しました。本園は1938年(昭和13年)財団法人雲柱社のもとに法人化され、1983年(昭和58年)には学校法人として認可され現在にいたっています。また賀川は、戦後、社会福祉事業の保育園を各地にたくさん作りました。現在も雲柱社は保育園を運営するとともに学童保育や子育て支援センターの活動にも力を注いでいます。
賀川は自然と科学ということについても非常に学識の深い方でしたので、子ども達を自然の中で生活させなければいけないと思い、この地に農村伝道神学校を設立して、「自然教案」を作られました。梅の木など色々な木々を植え、当時は動物も飼っていたようです。今も春になると桑の実や梅の実や夏みかんがなるのでその収穫を楽しみながら、子ども達は泥んこになって遊んでいます。キリスト教の信仰に基づいた教育と並んで自然教育に重きを置いていたのです。それは例えばクラス名にも表れていて、太陽・水星・金星・火星・木星と天体にちなんでおり、現在でも引き継がれています。
日々の保育の中で大切にしていること
現在もその基を活かして、キリスト教に基づいた教育を行い、子ども達が目を輝かし毎日を生き生きと生活できる保育を目指しています。子ども達一人一人は神から与えられた“生きる力”を持って生まれています。松沢幼稚園では、幼児教育は子どもに自信を持たせ、自らが持っている力を発揮することができるように、心身の発達段階に応じた適切なものでなければならないと考えます。遊びを通して友達との関係を学び、心身ともにバランスよく発達できるような保育を目指しています。
園庭にはたくさんの実のなる木、梅・みかん・桑などが植わっています。私達は日々の保育の中でジャムを作ったり、保育中にみかんを分け合って食べたり、子ども達が肌で感じられる自然の恵みを大切にしています。毎年春にはブランコの横にある、桑の木にシジュウカラが巣を作り、かわいらしいさえずりを聞かせてくれますので、子ども達も楽しみにしています。
また、地域社会との触れ合いを大切にし、たくさんの方々のお力をお借りしていきたいと考え、誕生会や行事に外部からお客様をお招きし、ヴァイオリンやマリンバ、お琴などの生演奏や手品、ダンスを披露していただいたり、近隣の老人ホームを訪問し、おじいちゃま・おばあちゃまとの交流の時間を持ったりしています。老人ホームとの交流は、子ども達にとって家族や幼稚園の仲間以外の人々との出会い、触れ合いを喜んでくださるおじいちゃま・おばあちゃまとの出会いに、自分達が誰かに喜んでいただける存在であると感じられ、大きな自信をつけている姿が見られます。

日々の保育の中で遊びの時間を大切にしています。子ども達が自分のやりたいことを思い切りすることができるように、教師達は一人一人を見て、必要であれば手助けや、どうしたらよいか一緒に考えて適切な導きを行っています。子ども達は遊びを通して、自分の思いを伝える力や他者を受け入れる力、人と関わる力を学んでいきます。人との関わりは知識の詰め込みで学べるものではありません。ケンカや仲直り、話し合いや助け合いなどを遊びの中で繰り返し経験し、子ども達は心と体全体で学んでいくのです。それは突然身に付くものではなく、ゆったりとした流れの中で、信頼できる大人に見守られながら獲得していく知恵だと思います。遊びの中での経験は、そのまま集団生活にもつながっていきます。大勢の人と気持ちよく過ごすためのルールは幼児期にももちろん存在し、幼稚園はその集団生活を学ぶ場でもあります。
幼稚園では様々な行事がありますが、本園では子ども達の普段の生活の中に自然な形でそれらを採り入れています。また、季節を感じることや日本の伝統的な行事も大切にしています。生活は日に日に便利になり、機械化が進み、暑さ寒さも肌で感じることが少なくなってきた現代だからこそ、季節の移り変わりを心と身体で感じ、自然の恵み、自分が生かされている恵みに感謝し、目に見えない神様という存在を感じ、日々を過ごす中で共に生きる仲間への思いやりと自分を受け入れ自分を信じる力を育んでいって欲しいと願っています。

未就園児の子育て支援について
地域に開かれた幼稚園 − 子育てサロン、ほし組
お母様がちょっと落ち着ける場、リフレッシュする場として、子育てサロンを開催しています。未就園児の親子で参加していただき、子育てなどについてざっくばらんに話をし交流する機会となっています。以前でしたら入園前は親子でゆったりとした時間を持つことができればそれで充分と考えていましたが、今のお母様たちには外へ出て息抜きする時間、他のお母様方と交わる時間も必要だと思うようになりました。そうしてリフレッシュすることや、悩んでいるのは自分だけではないと知ることによって、日々の育児によい作用を及ぼす、つまりこうした活動は結果として子どものためのものでもあるのです。
子育てサロンの他に月1回程度、園庭開放(ほし組)もしています。親子で安心して遊べる場を提供すると共に、気軽に子育ての相談を受けたり、お母様同士の交流の場となることも願っています。在園して直接関わっている親子だけでなく、その手前にいる親子にも手をさしのべることは、今、幼稚園の仕事の一つとして大切にしていくべきことだと思っています。昔はおばあちゃまとか、近所のちょっと先輩の方などが担っていた役割を、幼稚園としてできることがあるのではないでしょうか。
2歳児クラス − スターレットクラス
スターレットクラスは、親子で週1回登園しています。基本的には初めてのお子さんのお母様と子どもを対象としたクラスです。初めてのお母様というのはとても一生懸命になります。また今のお母様達は情報過多で、「こうあらねばならぬ」という思いが強くあります。だから逆に私は、「頑張らなくていいのよ」「ゆっくりやりましょうね」と言っています。かかわり過ぎるお母様と、子どものペースに振り回されてしまうお母様がいらして極端だと感じます。だから私はちょっと前に出て、方向を示してあげることが大切なのかなと思っています。
お母様たちの活動
幼稚園には、お母様達のコーラス部、バレーボール部があります。その他、園庭の花壇の手入れをして下さるガーデニングボランティアや運動会、感謝祭のお手伝いなど、園の活動にたくさんの方が関わってくださいます。そうした活動があることを初めは大変だと感じる方もいらっしゃると思いますが、幼稚園に積極的に関わることで園生活の理解が深まり、より楽しくなったという声も多く聞かれます。そんな中から行事の際に下の兄弟を預かり合う、相互託児のシステムもお母様からの発案で運営されるようになるなど、自主的な活動も出てきました。それぞれ、お母様同士が交流したり、子ども達と関りながら、幼稚園の生活をエンジョイして、親子共々そこから成長していくことを感じています。お母様方が特技を生かし、保育に協力していただけることに感謝をしていますし、子どもだけでなく、お母様方もそれぞれ生き生きと個性を発揮できる場を提供できれば、と思っています。
他にも、母の会活動としてフォスターペアレントの活動もお母様方の発案で始まりました。海外の生活を経験したお母様たちが主体になって、手紙の翻訳にあたったり、子ども達にも活動内容が理解できるように、援助をしている子どものことや国のことを、工夫してわかりやすく伝えてくださいます。保護者の方の中にはいろいろな国にいた方達がいらして、いろいろなことを教えて下さいます。それだけ日本人も世界に広がっているということです。人格の基礎が形成される幼児期に、海外の異なる文化の中で生活する子どもが増えるのに伴い、日本人としてきちんとした教育をしていかなければならないと感じます。
海外生活の経験を通して
私は30年ほど前に学校を卒業し、日本の幼稚園で数年保育に携わった後、イランに渡りテヘランで日本人幼稚園の園長を務めました。日本に帰国した後、アメリカのウィスコンシン州ミネアポリスで幼児教育を勉強しました。1980年ごろです。アメリカ人の先生からは日本人であるからこそ、日本の幼児教育に携わった方がよいというアドバイスを受けました。アメリカの幼児教育の実状を学ぶ中で日本の良さを改めて感じました。
その後、オーストラリア、インド、カナダに滞在し現地の幼稚園を訪れたり、保育に参加したりして見聞を広めました。また、海外子女教育財団の出国教室のアドバイザーもしましたが、私の生活は常に幼児教育と共にありました。
これらの経験から、自国の文化について知ることの重要さを痛感しました。アメリカで勉強をした時の先生から「あなたは若い子みたいに喋れないけれど、幼児教育に対する考え方はきちんとあって、その考えを英語で上手に表現できないだけだから決して恥ずかしいことではありませんよ」と言われました。英語はあまり上達しませんでしたが、まずは、自分の考えをきちんと持つことが大切だと学びました。
お母様方と共に…
子育て中は狭い世界にいるように感じられることもあると思いますが、その期間は決してマイナスではないのです。子どもの視線で過ごすことによって新鮮で豊かな発見・感動があるのはもちろん、子どもと向き合うことで客観的に自分を見ることができるのではないでしょうか。この時期の子どもに関われる時は本当に短いですから、なおざりにしてはもったいないとお母様達に伝えています。子どもにはきちんとご飯を食べさせて、きちんと寝かせること、それが生活の基本だと考えています。当たり前のことではありますが、それはとても大変なことです。でも大切なことなのです。素敵なお母様方に私も刺激を受けつつ、親子、教師、共に育ち合う日々を過ごしていきたいと思っています。
2005年10月14日(金)松沢幼稚園にて


