新渡戸稲造晩年の苦悩−憂国と愛国の間で−(34)
「第三者の干渉のゆえに」
(2)
「9月18日の事件のあとで、中国政府要人が脱出したことから起こった満州地区での突然の行政・軍事両面の業務中止──から、あたかも満州国が日本軍の単なる傀儡国家であるかのような印象を一般には与えている。」
「満州国が日本の援助で設立されたことは、誰も否定しない。新しい国々が他の国々の援助を受けて設立されることは、世界では、ありふれた経験である。パナマの例〔1903年独立時に米国の援助〕は、忘れ去るにはあまりにも最近の出来事である。外モンゴル共和国〔モンゴル人民共和国、1924年成立、ソ連の衛星国第1号〕が生まれてから、まだ10年も経っていない。もし、人が中国の南京国民政府の設立に至る経過を研究してみれば、そこには、物・心両面にわたってのロシアの援助があったことに気づくであろう。こうした事例はすべて、不戦条約によって世界に新しい統治形式が発表される前に起こった出来事であったのだ、という議論がある。それでは、その新しい制度の実現では、新国家の誕生に際し、いかなる“産婆”の助力も求めるべきではない、と記されているか?」
(3)
「確かに、日本国全体の中には、中世的な右翼から極端な左翼に至るあらゆる種類の意見がある。しかし、外部世界からの脅威や脅威の動きがみられると、国内の異なった意見は、すべて一つの緊密なナショナリズムに融合されるのである。したがって、現在の中国との紛糾問題は、もし当事者二国間にその解決が任せられていたら、日本における自由主義思想が、もっとはるかに大きな影響力を発揮していたことであろう、第三者の干渉があったために、混乱状態は一層悪化して行った。特にその干渉に脅迫の影がついていた時は、なおさらそうであった。日本のリベラル(自由主義者)たちは、満州での軍事行動に賛成ではなかったが、海外からの脅威が及んできたとき、彼らは自国の名誉を守るために、その脅威と立ち向かい、同じ日本人として、軍人との間にある些細な争いをやめたのであった。」

Photo by 飯田純一
Back Number
- 渡戸稲造晩年の苦悩
−憂国と愛国の間で− - 第36回 悲しい「護国の鬼」
- 第35回 ボルシェビキ・ロシアの餌食となって…
- 第34回 「第三者の干渉のゆえに」
- 第33回 「満州事変は自己防衛」
- 第32回 「愛国心は国民を偽善者とする」
- 第31回 満州国は傀儡である、と
- 第30回 “Poor Old Nitobe”
- 第29回 スチムソン会見
- 第28回 五・一五事件
- 第27回 行け、汝の内なる光を頼りに
- 第26回 盲目の指導者たち
- 第25回 盲人が盲人の手を引く
- 第24回 アメリカへ
- 第23回 忍ぶ心は神は知るらん
- 第22回 古への目ざめし人の跡見れば
- 第21回 森垣太郎への手紙
- 第20回 左近司談話
- 「Warm Heart Lecture」バックナンバー
- 「Warm Heart Letter & Essay」を読む


