新渡戸稲造晩年の苦悩−憂国と愛国の間で−(31)
満州国は傀儡である、と
スチムソンは“Poor old Nitobe”と表現して、新渡戸が今置かれている苦しい状況を良く理解していた。現実主義者スチムソンを前にして、新渡戸は通りいっぺんの外交辞令の挨拶で済ます訳にはゆかなかった。彼は日本のファッショ化の中で「日本の自由主義思想の流れは、今は口も開けず何を言うこともできない」状態であることを認めた。そしてこの3月に独立した満州国も今は大人しくしているけれども、「三千万の中国人が、外部の征服者による同化策に対して、被征服者が常に示すのと同じ頑強さをみせることは疑う余地のないことだ」と率直に告げた。新渡戸は独立した満州国が実は関東軍の作り上げた完全な傀儡政権にすぎないことを知っていた。彼は心中では三千万の満州国国民がいずれ外部の征服者(関東軍及び軍国主義日本)の同化策に反対して、傀儡政権を見限って独立の気運を強めるだろうと予想していた。しかし新渡戸は言論の自由なアメリカでも、かかる本音を公の場で表明することは出来なかった。彼が1ヶ月半前、「奉国の一念」をもって日本を後にしたのは「外国の誤解を解く事」就中アメリカの誤解を解くことによって日本を弁護することであった。しかし彼が弁護しようとする日本は軍国主義国家、ファシズムへの途を歩む日本であった。彼の仕事は困難な仕事であった。彼が自分に決めた役回りは満州事変を、そして上海事変を弁護することであった。そしてそれは結局、軍国主義日本を、日本の大陸侵略を弁護することに他ならなかった。
Photo by 飯田純一
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- 渡戸稲造晩年の苦悩
−憂国と愛国の間で− - 第36回 悲しい「護国の鬼」
- 第35回 ボルシェビキ・ロシアの餌食となって…
- 第34回 「第三者の干渉のゆえに」
- 第33回 「満州事変は自己防衛」
- 第32回 「愛国心は国民を偽善者とする」
- 第31回 満州国は傀儡である、と
- 第30回 “Poor Old Nitobe”
- 第29回 スチムソン会見
- 第28回 五・一五事件
- 第27回 行け、汝の内なる光を頼りに
- 第26回 盲目の指導者たち
- 第25回 盲人が盲人の手を引く
- 第24回 アメリカへ
- 第23回 忍ぶ心は神は知るらん
- 第22回 古への目ざめし人の跡見れば
- 第21回 森垣太郎への手紙
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