新渡戸稲造晩年の苦悩−憂国と愛国の間で−(27)
行け、汝の内なる光を頼りに
今回のアメリカ説得の旅は新渡戸にとっていかにも気の進まない旅であった。自分で決めたとはいえ、むしろ煮え湯を飲まされるような苦渋の選択であった。そして説得の試みが成功する可能性は万に一つもなかった。自分の厭うことを、しかも可能性ゼロの試みをあえてしなければならない自らの境遇に、新渡戸の心中は暗澹たるものだった。「心はうち沈み、その任務を放棄したい気になっていた」時、オキナ(編集余録に登場する新渡戸の年上の友人。想像上の人物)が言った。「行け、汝の内なる光を頼りに」。その時の想いを新渡戸は5月1日の「アメリカで学びつつあること」に次のように記している。
431 旅行者を元気づける忠告
32・5・1
あまり気乗りしない旅行に出発する前の晩に、私は、別れを告げにオキナを訪ねた。私の旅の平安を願って、オキナは言った──「およそ五十年前、私は非常に苦しい使命を帯びて遣わされたのだ。私の訪ねるべき国は、全く暗黒と見えた。私はいわば眼をこらして、私を導き慰めるべき光を探した。一条の光線も見つからないので、私の心はうち沈み、その任務を放棄したい気になった。そのとき、一つの声が私の内で叫んだのだ──行け、汝の内なる光を頼りに。私は大いに勇気づけられた思いがした。というのも、私の心中、利欲や野心は一かけらも宿していなかったからだ。私は自分に言うことができた、「私の心は清いのだから、私の力は十人力同様だ」と。
私はオキナの教訓にみちた話を有難く思った、この話は、どの旅行者をも、旅立ちに当たって元気づけるであろうから。

Photo by 飯田純一
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- 第34回 「第三者の干渉のゆえに」
- 第33回 「満州事変は自己防衛」
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- 第31回 満州国は傀儡である、と
- 第30回 “Poor Old Nitobe”
- 第29回 スチムソン会見
- 第28回 五・一五事件
- 第27回 行け、汝の内なる光を頼りに
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