新渡戸稲造晩年の苦悩−憂国と愛国の間で−(21)
森垣太郎への手紙
この懇談の二日後の2月29日、新渡戸は松山講演の折、世話になった旧知の森垣太郎に次のような礼状を出している。
拝啓 陳者先般御地へ出張致候節は久々にて御目にかかり誠に愉快を覚居候 御不自由なる御身を以て公事に御努力あらせらるヽ御様子を拝し感慨無量に有之候 扨て御地旅館に於て新聞記者に談話せる事柄より世──(寧ろ憲兵方面)の曲解を引起し貴兄にまでも御迷惑をかけ候由誠に御気の毒に存じ候 右事件に関して貴兄よりも縷々釈明被下たる由は大毎紙上により承知致候 幸ひ此地の当局者殊に陸海両大臣は篤と小生の意を諒解をせる由目下の一大要務は外国の誤解を解く事に有之候へ共これこそ小生の日頃努力せる事とて今後一層其の任に奮発致度存候
右御礼まで草々
猶ほ菅氏より御聞とり願上候
二月二十九日
森大兄新渡戸稲造
手紙の中では「目下の一大要務は外国の誤解を解く事に有之候」と述べられている。新渡戸は左近司、永田との懇談の折、二人に対して、満州問題、上海事件について「外国の誤解を解く事」に努力する旨の約束をしたものと推測される。「今後一層其の任に奮発致度存候」とは二人に約束した内容を友人に披瀝したものと思われる。この手紙を書いた時点で新渡戸は、この事件はこれで落着するもの、と考えていた。が、そうはいかなかった。

Photo by 飯田純一
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