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駒大経済銀八教授のWarm Heart Lecture

銀八教授(福原好喜)のプロフィール

銀八教授の本

新渡戸稲造晩年の苦悩−憂国と愛国の間で−(4)

憂国の人

前年の11月14日、ロンドン海軍軍縮会議にからむ統帥権干犯問題で、浜口雄幸首相が東京駅で右翼に狙撃される事件が起こっており、このクーデター計画を知った時、新渡戸の心は不吉な時代の始まりを予感したに違いない。

浜口首相狙撃事件の時、新渡戸は『英文大阪毎日』12月19日のEditorial Jottings編集余録に次のように述べている。

152 わが国のために

30・12・19

この昭和の文明の時代において、われわれの間に──しかも帝国の首都に──テロリストが横行し、愛国の名において、卑劣な欺瞞と卑怯な行動をほしいままにするとは、信じられぬように思われる。凶悪きわまりない悪行が、愛国という聖なる名の下で、行なわれるということはあってはならない。

捕まった泥棒は勝ちほこってわめく──「おれは社会正義のために、金持ちから取って貧乏人を助けるのだ。」──そのくせ、しじゅう盗んだ金を自分だけに使うのだ、まるで自分だけで社会を構成しているように。殺人犯は誇らかに叫ぶ──「おれがあいつを殺したのは、あいつが国の為にならないからだ。」──ここでもまた、国とは彼自身のことにほかならない。

いわゆる愛国より以上の高い教えを知らぬ連中こそ、まさしく国の名を汚し、国を裏切る者どもである。

新渡戸にとって愛国を唱える暴力は、結局自分のために行動しているのであって、テロリストやファシストは「国を裏切る者」にほかならなかった。新渡戸の考える愛国は、右翼やテロリストやファシストの唱える「愛国」とは決定的に違っていた。彼は言う。「己が国を愛する人は、その罪や欠点すらも愛するであろうが、それにひきかえ、己が国を悲しむ(ウレイ)人は、その罪と欠点のゆえに憂うる。」新渡戸は愛国の人というより憂国の人であった。

Photo by 飯田純一


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