第35回 義を見てせざるは勇なきなり
地元『房日新聞』「展望台」氏の女子高生に対するストーカー記事は、自分のことにしか関心を持たない現代の日本人に対して、深い憂慮と深刻な問題提起を示すものであった。館山駅でストーカーにつきまとわれて困った女子高生が車掌に助けを求めたのに、車掌の反応は「上司に伝えておく」というものだったという。「二十世紀前半のこの国の誤った国家意識の反動が、戦後の現代になって、見境のない個人主義思想を育ててしまい『公』の意識が見失われている」と「展望台」氏は慨嘆する。私もこの長期不況下で続出する政・財・官で日本をリードする人々の不祥事や、家庭や学校で日常化するいじめ、暴力、不登校、自殺等の荒廃現象を目の当たりにする時、戦後の日本教育は家庭、学校、社会を含め総反省すべき時に来ているという思いを深くする。
かつて総武線のある駅で、酔っぱらいがビンを持って女性を追いかけていたのに、周りの男性は誰も彼女を助けなかったという。この若い女性があわやホームから落ちそうになった時、2人の間に割って入ったのは、日本に来て未だ間もない二十四歳の米国の青年であったという。彼は酔漢にビンで見事額を割られ血まみれになった。犯人は自動改札機を飛びこえて逃げた。彼は怒ったが、それは犯人に対して以上に、日本及び日本人に対してであった。「何故駅員は構内の暴力事件にも拘わらず犯人を取り逃がしてしまったのか?」、「何故日本の男性は誰一人としてこの弱い被害者を守ろうとしなかったのか?」、「何故日本の警察はこの暴力事件を立件しなかったのか?」彼の日本人に対する不信と怒りは納まらなかった。
私は教室でこの記事を読ませ、「君達ならどうする」と学生に尋ねた。どの教室でも「自分の身を挺して彼女を助ける」という学生は皆無であった。米国では物心ついた少年に、父親は「たとえ犠牲を払っても正義は行え」と言って聞かせるのが常であるという。私が自分の学生達について調べたところでは、小さい時、親から言われている最も多い教えは、母親の「何をしてもいいけど、人に迷惑をかけないでね」というものであった。
私は思う。親も先生も「勉強しなさい。勉強しないといい大学に行けないよ」とか、「いい会社に入れないよ」などつまらぬ教えをたれるのではなく、「社会的正義が侵された時は立ち上がりなさい」と教えるべきではないか、と。私は私の女子学生に常に言っている。「空手でも、柔道でも、防犯ベルでも、自分の身は自分で守ることを考えなさい。日本の男性はまさかの時には殆ど頼りになりません」と。

Photo by 飯田純一
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