第28回 コスモスの土産
コスモスに 想いは告げず 少女の日
コスモスの花言葉は「乙女の恋心」の由。この故か、この花に想いを寄せる女性ファンの数は多い。私が故郷、八束の県道沿いにコスモスを咲かせて10年になる。今では町の案内マップに「コスモス街道」として載っている。
「コスモスを育てている」と言うと、人はたいがい「ロマンチックですねえ」と言う。しかし、実際にコスモスを育てるという作業は、ロマンチックとはおよそほど遠い作業である。沿道2キロ、ビンとカンを拾い、草を刈り、石混じりの路側帯の外側に、石鍬で植え穴を掘る。ビンとカンは、朝マラソンをしながら拾うので、コスモス街道には当日分を除いて、ほとんど落ちていない。危険なのは「工事中」の看板を業者が撤去する時、プライヤーで切ったまま置いていく八番線の置き土産である。案の定、今年も草刈り機が拾ってしまい、靴下が赤くなるほど出血した。
10年前、10月14日の大津祭りのため実家に帰った人々や、祭りに呼ばれた招待客は、屋台の引き回しコース2キロを華やかに飾ったフラワー・ラインに、驚き、かつ喜んだのであった。地元の人々の間でも、チョットした評判になった。散歩の足をのばす人、タクシーで見に来る人、また勿体ないといって自転車から降りてわざわざ押して歩く人もいた。
地元の夫婦が昼食時、家で話をしていた。
「コスモス、きれいネェ。誰が植えたのかしら」
「ウン、あれは見事だ。誰かナァ」
奥で寝ていたM老人が聞いた。
「何がきれいだって?」
「ウン、コスモスがよ」
「何処の?」
「金橋のところがヨウ」
「そんなにきれいか?」
「ウン、それはそれは見事だ」
「…オレも、見てえナァ」
M老人は既に3年寝たきりであった。夫婦は相談して車椅子を買い、おやじさんにコスモスを見せることにした。
穏やかな秋の一日、夫婦は交代で車椅子を押し、M老人にコスモス街道を見せて回った。その後まもなく、Mさんは不帰の客となったが、息子さんは人に言ったという。
「俺も親孝行の真似事が出来たし、オヤジにもいい冥土の土産になったよ」と。
植えたコスモスを何度も刈られてしまい、その度ごとに、コスモス街道は今年限りにしようと思いながら、Mさんのことが心にひっかかって、なかなか止められないのである。
「Mさんは、私の両親や兄弟のいる妙連寺で、地元の先輩達に、コスモスの土産話をしたであろうか?」
今年の夏は日照りで、館山バイパスのコスモスの大部分が枯れてしまったのは、誠に残念である。私は夕方3週間連続で、コスモス街道に水を運んだ。暑い長い夏が終わって、漸く房州路に秋が来た。八束の里に秋たけて、澄み渡った青空の下、秋風に「乙女の恋心」の揺れる日が近い。
寂しさの 何処まで広き 秋の空

Photo by 飯田純一
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