第14回 心の中では悩み苦しんで
福原先生への手紙。学生達の無表情の陰にあるもの
K・U
先生、お元気ですか。「総理に忠告す」拝見しました。この本に流れているもの、それは「ウォームハート」にほかなりません。先生は経済学の講義の名を借りて、人間の生きざまについて常に教え諭していらっしゃいます。目には見えないけれど何時も何時も学生を骨も折れんばかりに抱きしめながら「一人で悩むことはない、一人で苦しまなくてもいい」と慰め励ましていらっしゃいます。そして時には背中を強く押して「知らん振りをするのではない、ここぞという時には人間として怯まず立ち向かえ」と勇気を持って対処することの重要性、厳しさについて教えていらっしゃいます。
私は何十年振りかで学舎に戻り、若い学生達とともに学んだり遊んだりしているうちに、無表情、無感動といわれている学生達の上にのしかかっているもの、それは受験勉強によって色分けされた社会への諦め感から生じているのだろうと思うようになりました。小学校入学時から高校卒業までの間、学生達は「知識の習得をもって全とする」という教育制度の下で育てられ、点数競争に明け暮れ、ゆっくり考えることも、楽しむことも、語り合うこともなく、「勉強」「勉強」と追い立てられています。その挙句、ほぼ高校までの偏差値で社会的な色分け(例えば有名大学、無名大学というような区分)がなされてしまい、その時点で自分の将来展望が見えたと錯覚しているのが現状です。実際に卒業によって社会や仕事の選択の幅が極端に異なってくるのも事実です。偏差値ではじき出された学生達は閉塞された社会の中で全く展望が見えず、表情には出さないものが心の中では悩み苦しんでいるのだろうと解釈しています。
先生は本の中で教育というのは「自立するための道を教えるもの」と述べていらっしゃいますが、私も全く同じに考えます。知識の習得は一生涯続くものであり、一・二年間の教育期間で終了するものではありません。先生、自立の道は机の上には描かれていない。自分の足で歩いて探せと先生のウォームハートで説き、今、学生達が感じている閉塞感を取り払ってあげてください。
先生、私は五〇歳の誕生日に「人間として生まれて来て、この世に何が残せるか」を真剣に考えました。死ぬ瞬間に、「お前も良いことをしたじゃないか」と自分を誉めることが出来たら幸せだろうな、という思いもありました。幾つかの選択肢の中から留学生の面倒をみることを決意し、全く見ず知らずの中国の女子学生を我が家に家族として迎えました。九年間の留学期間中の学費をはじめとする一切の費用は私が負担しました。彼女は今年、中国に戻って行きましたが、帰りぎわに私は彼女に言いました。「もし私や日本人に感謝の気持ちを感じてくれたら、次の世代の子供達に貴女が出来ることをしてあげて下さい。そうすればお互い感謝の気持ちで結ばれますよ。」彼女は答えました。「中国とか日本とかではないハートとハートの結びつきを学びました」、と。先生、今度彼女が日本に来た時、彼女に会ってあげて下さい。「日本にもこんなハートの熱い先生がいるんですよ」と彼女に自慢したいのです。

Photo by 飯田純一
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- 第35回 義を見てせざるは勇なきなり
- 第34回 友への手紙
- 第33回 百姓であること、教員であること
- 第32回 大盤振る舞い
- 第31回 援農隊に参加して
- 第30回 明子ちゃんへ
- 第29回 明子ちゃんからの手紙
- 第28回 コスモスの土産
- 第27回 安佳里ちゃんへの手紙
- 第26回 安佳里ちゃんからの手紙
- 第25回 「田舎の夏休み」の花奈ちゃんへ
- 第24回 心の教育
−新渡戸稲造、遠友夜学校 - 第23回 牛の涙
- 第22回 新渡戸稲造と唐人お吉
- 第21回 真面目の不徳
- 第20回 千種台中学校の皆さんへ
- 第19回 一緒に育とう乙女の恋心
- 第18回 お元気になさってますか?
- 第17回 ホタルに寄す
- 第16回 最長不倒記録
- 第15回 王様を育てる
−農民教授の農産物 - 第14回 心の中では悩み苦しんで
- 第13回 「ふぅ〜」が多いのです
- 第12回 福原ゼミナール十訓
- 第11回 「総理に忠告す」を読み終えて
−大学をやめようかと - 第10回 「総理に忠告す」を読み終えて
−心の中に入ってきた人 - 第9回 「総理に忠告す」を読み終えて
−憂国憂民の情 - 第8回 精神的に病んで
- 第7回 『「銀八先生」心の手紙』を読んで
−先生、自分が好きになりました - 第6回 遠い春
- 第5回 ウォーム・ハート宣言
- 第4回 阪神大震災と私
−幻の広告 - 第3回 手向けの花
- 第2回 さらば銀八先生
−卒業生からの手紙 - 第1回 ガンバレ山古志小の子供達


