耐震強度偽装問題に始まり、ライブドア、談合、東横イン。日本はいったいどうなってしまうんでしょうか。自由経済社会では倫理が伴わなければいけないのに、魂が欠落しているとしか思えない事件が相次いでいます。「時代によって求められる素養は変わるが、まずは勤勉を美徳とし、自己犠牲で公に尽くすという日本人の精神文化や価値観を教育の場で再構築するとき」と次期経団連会長の御手洗冨士夫氏は語っています。これは新渡戸稲造先生が著した『武士道』の世界そのもの。日本人の心の拠り所が見えなくなっている今、本当に必要なのはしっかりとした価値観ではないでしょうか。
新渡戸先生の『武士道』はベルギー滞在中に、「日本では宗教教育をせず、どのように道徳教育をされているのか」と尋ねられ、日本人の人生観・道徳観は「武士道」に由来すると考えられ、それを著したものです。また、先生の考えや思いを著した「世渡りの道」「自警録」「人生読本」「一日一言」などには今の日本人が置き忘れているものがたくさん詰まっています。
教育者であり、農学者、法学者の新渡戸稲造先生は札幌農学校(現北海道大学)・東京帝国大学などの教授として、また、東京女子大学学長など数多くの教育に携わりました。そして、国際連盟事務次長として国際紛争の解決にも奔走しました。
その新渡戸先生を初代校長とする東京文化中学高等学校では、『武士道』を初めとする先生の著書の中から、今の時代に必要なキーワードを取り出し、「心の教育」として生徒と一緒に『夢に向かって』と題して、そのあり方を考えています。
ここにいくつかご紹介しましょう。
「夢もまた人生の一部である。夢のない人生はない」(『自警録』「夢の実用」)
最近のアンケート調査で、自分の将来に夢を持てない小学生が多く、就きたい仕事も堅実なものだそうです。子供の夢はどこへ行ったのでしょうか。夢を持たせてくれない大人や社会が悪いのでしょうか。
「目的を高き理想に置くならば、これに達する道は一つではない。目的によっては有り余るほどこれに達する道がある」(『人生読本』「如何なる時にがんばるべきか」)
理想に向かう道は人の数だけあるのです。「みんなで渡れば怖くない」ではありませんが、みんな画一的になっていませんか。スマップの「世界に一つだけの花」が流行りました。個性を認めてあげることが大切です。
「言葉はこれを用いる人の心を表す。まったく異ならぬ同一事実のものでも、見ようによってはほめることもできれば、非難することもできる」(『自警録』「言葉の心」)
私達の先人は言葉に霊が宿っていると信じていました。言葉は使う人の心を反映します。伝えたいことはしっかりと、そして、いつも相手のことを考えた言葉遣いを心がけたいものです。人はいつでも誉められたい!
「他を責めたり不平不満を言う前に、自分の目前の義務を果たすことが第一である」(『世渡りの道』「人生問題の解決前提」)
自分のできることを一つずつ解決して行くことが大きな仕事を可能にします。とかくできないことを他のせいにしてしまうのが常です。私も毎日が反省です。

このように、先生の本には今忘れかけている、『人』として大切な考え方や行動がはっきりとした形で示されています。
ちなみに、新渡戸先生は東京帝国大学で英語を学ぶ理由を聞かれ「太平洋の橋に成りたいからです(我太平洋の橋とならん)」と答え、本校の校長として生徒に語った最後の言葉は「一人ひとりが後光を放つ人となって欲しい(人格の後光を放て)」でした。
私達はこの大切な『心』をいかにして子供達に伝え、心豊かな社会人に成ってもらうかを考えながら、共に過ごし、そして共に成長しています。
本校に限らず、私立学校は建学の精神を持ち、『心』の発育を大切にして日々生徒と係わっています。その思いは一つで、心豊かで幸福な人生を送ると同時に、社会を担う一人として正しい価値観を持って成長して欲しいことです。
子供達は皆個性豊かです。学力のみにとらわれずに大切なお子様の個性や未来を考えてあげてください。