ひょんなことからお鉢が回ってきましたが、私が司書教諭でもあり、話題もつながりそうなので、本校の図書館について紹介することにします。
本校の現在の図書館は、この9月にちょうど開館10年となりましたが、学園創立100周年記念館の中心施設として建てられたものです。学園が創立100周年を迎えるにあたって、その記念施設として何がよいかについてはいろいろ議論があったようですが、新しい図書館を建てようと決まったことには、単にそれまでの図書館が狭くなったからという理由だけではなく、図書館への思い入れがあったからでしょう。図書館が自学自習の場となることは、図書館への一般的な期待でもありますが、それのみならず、自由闊達な校風のもとで「自主自立の精神」を育てたいとする学園の教育理念がそこにあったのだと思います。別言すれば、そこには麻布の教養主義があるとも言えましょう。(では、その教養主義とは何ということになりますが、「グロテスクな」(高田里恵子『グロテスクな教養』、ちくま新書)話にもなりますので、こう言っておくにとどめます。)
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では、まず図書館の概要を紹介してみます。図書館は100周年記念館の2、3階に位置し、広さは約1,130平方メートル、収容可能蔵書数は約9万5千冊(現在の蔵書数は約6万7千冊で、約60種の雑誌が定期購読されています)で、119の座席を備えています。そして、設備としては以下のようなものがあります。
- 資料検索用コンピュータ端末(OPAC)
2階(カウンターおよびカウンター横)には、OPAC(Online Public Access Catalogue, オパック) と呼ばれる資料検索用のパソコンが4台置かれ、図書館が所蔵する資料(ただし、雑誌や新聞は除く)の検索ができるようになっています。
- 閉架書庫
資料はできるかぎり2、3階の開架式書架に自由に閲覧できるかたちにして、配架するようにしていますが、3階には、電動式集密書架となっている閉架書庫があります。
- AV(Audio Visual) コーナー
2階には、AV資料を視聴するためのコーナーがあります。このコーナーには合計8つのブースがあり、すべてのブースでCD・DVD・ビデオが視聴できるだけでなく、そのうちの6ブースではLD に、2ブースではカセットテープにも対応しています。
ちなみに、AV資料の点数としては、ビデオデープが約390点、LDが約150点、DVDが約520点、CDが約1000点あります。
- レファレンスコーナー
2階には、各種の基本的な統計資料や参考図書とともに電子資料を並べた書架と、インターネットが利用できるパソコン2台とプリンター1台が設置してあります。
- コンピュータスペース
2階には、パソコンおよび周辺機器を設置したコーナーが設けてあり、そこをコンピュータスペースと呼んでいます。パソコンは全部で20台(Windows:14台、Macintosh :6台)で、すべてでインターネットが利用できます。
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以上の施設・設備において、図書館は司書教諭と各教科からの部員による図書館部および図書館要員によって運営されており、図書館としての企画も実施しています。ブックフェアという企画では、毎年テーマを決めて、そのテーマに即した本などの紹介を中心にした「図書館だより」を発行し、講演会を催したり、テーマに即した本を集めて紹介したりしています。ここ数年のテーマと講演者および演題を列挙してみますと、04年度…「中国」:石川忠久氏「漢詩の味わい−杜甫と李白−」、03年度…「地球・グローバル」:藤原帰一氏「「正しい戦争」は本当にあるのか」、02年度…「音(おと)」:武部聡志氏「わたしと音楽」、01年度…「身体(からだ)」:古賀稔彦氏「人生の教科書」、00年度…「発明・発見」:藤田一郎氏「認知の脳科学−21世紀を迎えて−」です。漢詩研究の第一人者である石川忠久氏、バルセロナオリンピックでの柔道金メダリストである古賀稔彦氏のお二人は卒業生ではありませんが、国際政治学者である東京大学大学院教授の藤原帰一氏、音楽プロデューサー(最近では一青窈をプロデュース)である武部聡志氏、認知脳科学の研究者である大阪大学大学院教授の藤田一郎氏は、3人とも学園の卒業生(期せずして同期生)でして、さまざまな分野で活躍する卒業生が多いことを改めて確認させられるとともに、強力な助っ人がいることに感謝するばかりです。
その他の企画としては、昨年度から始まった「著者を囲む読書会」があり、読書週間頃の11月に哲学・思想の研究者である竹田青嗣氏(早稲田大学教授)をお招きし、『哲学ってなんだ』(岩波ジュニア新書)をめぐって話し合いました。参加者にとっては著者と直接に質疑応答できる貴重な時間となりました。今年度も、やはり読書週間頃に、小浜逸郎氏の『善悪ってなに? 働くってどんなこと?』(草思社)を取り上げて、読書会を実施する予定です。
また、「麻布名画座」と称した映画会の企画もあります。これは、教員が見せたいと思う映画を上映するもので、たとえ参加者が少なくとも、「観に来る者が1人でもいればやる」という気持ちで実施しています。過去の上映作品を列挙すれば、ピエトロ・ジェルミ「鉄道員」、ルキノ・ヴィスコンティ「揺れる大地」、姜文「鬼が来た!」、エリア・カザン「エデンの東」、許秦豪「八月のクリスマス」、小津安二郎「東京物語」、ケン・ローチ「カルラの歌」、スタンリー・キューブッリック「2001年宇宙の旅」などです。
図書館の発行物としては、上記の「図書館だより」の他に、月に1、2回発行される図書館通信「衣錦尚
」や毎年夏休み前に発行される「夏休みに読んでおきたい本のリスト」があります。「衣錦尚
」では、図書館部員による本の紹介や図書館からのお知らせをするとともに、新着資料の紹介を怠らないようにしています。「夏休みに読んでおきたい本のリスト」は、各教科からの推薦図書を簡潔な紹介文やリストによって記していて、原則として毎年更新しています。いずれの発行物も、学園のホームページで見ることができます。(場合によっては一部割愛されていますが。)
もちろん、図書館では授業との連携もはかられており、日常的な学習の他に、中3国語の卒業論文、高1社会の基礎課程修了論文、高1家庭科の課題図書のレポートなどにおいては、図書館に不足している資料を補って、教科のニーズに応えるようにしています。

こうした図書館に生徒たちも親しんでくれています。3年前の卒業アルバムのアンケート結果では、「好きな場所」の第1位になったくらいです。(1位にならなくとも常に上位にランクされています。)利用者も多く、試験前などはロッカーが足りなくなり、図書館の入り口付近に生徒の荷物が散乱して困るほどになります。ちなみに、昨年度の年間利用者の延べ人数は過去最高の146,420人でした。(これは入り口にあるカウンターの数値で、ロッカーに荷物を預ける時にはカウンターを2度通過する仕組みになっていますので、実際の利用者の延べ人数は少なくなりますが、10万人以上であることは確かでしょう。)
貸出もこのところ増加傾向にあり、昨年度の図書の年間貸出冊数は、15,606冊でした。中1生に人気のあるのは漫画ですが、漫画がたくさんあるわけではありません。手塚治虫の『ブラックジャック』、『火の鳥』、『ブッタ』などや、『サザエさん』の他にいくつかあるのと、昨年のブックフェアのテーマが中国であったことから、横山光輝の『三国志』、『項羽と劉邦』、『水滸伝』が加わったのが現状です。図書の分類では漫画は700番台になりますが、700番台の貸出が多いのは中2生までで、中2生以上では、900番台の文学の貸出が一番多くなります。中3生となると、貸出は人文科学、社会科学、自然科学のそれぞれの分野にわたってきており、高校生とそれほど変わらない傾向を示しています。高1生で特徴的なのは、100〜300番台の人文科学、社会科学の貸出が増えることですが、その背景には、社会科の基礎課程修了論文作成があるはずです。ともあれ、図書館を利用してくれることは、我々にとって励みになります。
図書館は生徒からのリクエストも受け付けています。もちろんリクエストが何でも通るわけではありませんが、最近は、本、CD、DVDそれぞれにリクエスト件数が多く、リクエストした生徒は掲示板に結果が出るのを待っています。自分のリクエストが採用されなかった生徒の中には、その理由を問い質す者もいますし、反対に「まあ、無理だとはわかっていたんだけれど」と言ってくれる、ものわかりのいい者もいます。「スターウォーズ」の新しいシリーズものが採用されたときには、新着図書の書架にたくさん並んでいるのを友達と見て、とても喜んでいる光景もありました。中には、ハリウッド映画ばかりじゃダメだとばかりに、定期的にDVDをリクエストして、DVDが入ると仲間に映画指南をしている生徒もいます。考えてみれば、リクエストした資料は自分が麻布にいたことの証ともなるわけで、たくさんリクエストをする生徒は、図書館の中にマイ・コレクションを置いて卒業していくわけです。
現在、図書は年間2500冊前後が購入されていますが、生徒からのリクエストはその一部に過ぎず、中心となるのは教員からの選書です。その蓄積の結果が現在の図書館の蔵書となっているわけですが、その特徴を敢えて言えば(いやらしい言い方かもしれませんが)、中高の図書館らしからぬものとでも言えましょう。中学生ならこの程度、高校生ならこの程度がよいと考えるのではなく、この本はいいから図書館に入れておきたい、この本が図書館にあってもいいというように、いわば本本意に、あるいは誤解を恐れずに言えば教員本意に蓄積されていったことの結果が一般的な中高の図書館らしからぬものとなったと思われます。こう書くと、難しそうな本、一風変わった本ばかりが多いように思われてしまうかもしれませんが、決してそんなこともありません。基本的なもの、中高生に取っつきやすいものもちゃんとあります。ただ、それにとどまってはいないということです。こんな本を誰が読むんだという本があっていい図書館であり、そして、誰かに「こんな本」が読まれている図書館なのだと思います。
「馬を水辺に引いていくことはできるが、水を飲ませることはできない」とは、よく言われることですが、そう心得て、生徒たちの知的好奇心に応るとともに、それを刺激する図書館という水辺の環境整備ができればよいと思っています。