|
第9回 横須賀学院中学校 蛭田 雅晴先生のご紹介
出会いとライフ・ワーク
すでに教職20年を過ぎた私には「教師としてのライフワーク」と考えている2つの活動がある。一つは勤務校で続けてきた人間を追求する授業の取り組み。2つめは全国大会の運営を中心に関わってきた読書活動である。
これらの活動を今まで続けてこられた背景には、常に良き人々との出会いがある。もし、私が学校の内だけに安住し、外側に出会いを求めていなかったら、この2つはとうてい形をなさなかったと思う。
実は、この原稿を書くにいたったのも、横須賀学院・蛭田氏との思いがけない出会いがあったからである。話をするうちにお互いが同郷であること、しかも同じ高校の出身であることが判明。その後は広報担当同士ということもあって親しくおつき合いいただいている。
ここでは、私の読書方面での活動を中心に話をさせていただくことにする。
|

金子さとる先生 |
読書活動との出会い
私が読書コミュニティネットワークという団体があることを知ったのは、もう5年前のことである。その当時は、代表の庄司一幸氏の勤務校がある地元で全国大会を開催していた。「モルゲン」という月刊紙に案内が出ているのをたまたま目にした私は、その全国大会の内容にひかれ、同時に、どんな大会運営をしているのかも気になって参加させてもらうことにした。庄司氏に「朝の読書 夢ありて楽し」という著書があることを知り、一読後、感激してすぐにメールを送った記憶がある。私は本を読んで、「この人」と直感すると、手紙やメールを送ってしまうくせがある。有名かどうかは関係ない。自分の感覚だけが頼りである。庄司氏からはすぐに返事が来た。私のメールにただならぬ熱を感じとったのか、数人の発表者たちと同じ部屋に泊まらせてもらうことになった。福島県のかなり奥まった開催地であるにもかかわらず、参加者は200名近かったように覚えている。この大会のすばらしさは権威とか伝統とかほとんど気にしていない点にある。おそらく代表をつとめる庄司氏の姿勢を反映しているのだろう。この庄司氏の凄さは、名のあまり知られていない地域の読書活動をどんどん発掘しては全国の実践者たちの前で発表させてしまうところである。発表した後には、それらを集めて本にして出版してしまう。その読書活動にかけるバイタリティは息をのむばかりである。
全国大会の事務局として
そんな庄司氏と意気が合ってしまい、いつしか読書コミュニティネットワークの東京の事務局になってしまった。翌年には、いよいよ東京で大会を開催することになったせいでもある。事務局といっても、文部科学省の担当者の方々を訪問して挨拶やお礼を言ったり、大手新聞社に大会開催の記事をお願いしたり、都内の学校に大会要項を送ったりするといった程度で、あまり力になっていたとは言い難い。それでも東京の代々木青少年オリンピックセンターで開催された大会初日、心理学者の河合隼雄氏(文化庁長官)の講演や寺脇研氏(当時文化庁文化部長)、秋田喜代美氏(当時東大大学院助教授)、常世田良氏(当時浦安市立中央図書館長)そして庄司氏によるディスカッションには800名の参加者があった。その日は、台風接近の雨模様であったにもかかわらずである。
参加者は北海道から沖縄まで各地域から集結した。2日間にわたる東京での全国大会は大成功であった。すっかり片づけて運営に協力してくれた皆さんにお礼を言い、庄司氏と私ともう一人の役員で最後に会場を出た。雨は上がっていた。まさに台風が過ぎ去った後のような気持ちで参宮橋駅まで歩いた。

日本中から集まる全国大会の参加者たち
大会を通じて出会った人々
大会で毎年顔を合わせる人々は、みな読書に関わる実践者たちである。地域の読み聞かせ活動のリーダー、独自の読書指導を学校で展開している先生たち、音楽と読書を結びつける活動を精力的に進めている音楽家の方々等、全部はとても紹介出来ないほど活動の種類は広範囲に及ぶ。皆、派手ではないが地に足をつけた活動をしている。「俺が」「私が」という雰囲気がない。年々新しいメンバーも加わる。自然体である。この人々が一年に一度、勢揃いして顔を合わせるのが全国大会である。正直言って、私はこのような人々と出会うのが楽しみで事務局をしていると言ってもいい。
もう一つ、大会の楽しみがある。それは、全体講演や対談などを引き受けて下さった方々との出会いである。毎年、メインの講演や対談では素晴らしい話が聞ける。もちろん、私たちは運営のために、舞台の裏や観客席を走り回っている。写真を撮ったり、参加者のトイレの誘導にあたったりもする。話を聞くと言っても、まったく途切れ途切れである。しかし、本番の前日や講演の後で親しく話を伺う機会もある。舞台裏での様子を見ることもできる。これは楽しい。
岩崎京子さん、谷川俊太郎・賢作親子、大村はまさんとの出会い
児童文学作家の岩崎京子さんには、私が最初に大会に参加した時から毎年お目にかかっている。岩崎さんが大会で子供たちを相手に実演して下さったお話は、我が家では子供を寝かせる時の定番になってしまった。あのときの、岩崎さんの子供たちに対する慈愛につつまれたような声には目から鱗の思いがした。

谷川俊太郎氏、庄司氏と
一昨年、郡山の大会で朗読と演奏を聴かせてくれた谷川俊太郎・賢作さん親子も実にさわやかな印象を残してくださった。おそらく1000名近かったであろう参加者たちは谷川俊太郎さんの朗読とお話にもう夢中であった。同時に、谷川賢作さんというピアニストの織りなす音楽に強烈な感銘を受けていた。私自身、運営の仕事の合間を見つけて賢作さんのCDを買いに走ってしまったほどである。終了後、参加者はCDと本の売場に殺到し、あっという間に売り切れになったと聞いた。すべては無事終了し、予約した新幹線まで時間があるということで、谷川さん親子も運営スタッフだけの打ち上げパーティーに参加してくれることになった。さきほどの興奮がさめやらぬうちに、谷川さん親子とスタッフ数人でマイクロバスに乗り込む。打ち上げパーティーには、ずっと受付をしていたり、裏方であったために、ほとんど会場に入れずにいたスタッフもいる。これは本当にありがたいことであった。私は家に帰って「かっぱかっぱらった‥」などの詩を読んで聞かせた。その時はそれほど反応しなかった娘であったが、しばらく日がたつと、「あの詩が教科書に載ってた!」と嬉しそうに今度は自分で読んで聞かせてくれたりした。
こうやって一人ずつあげていくときりがない。もう一人だけ、大村はまさん、いや先生である。この方だけは、先生と呼ばずにはいられない。「百年に一度の教師」と評されている文章を読んだことがある。教師になりたての頃、「教えるということ」を買って読んだ記憶がある。感銘を受けたのだが、その後は読んでいなかった。その不覚を恥じることになったのが昨年である。大村先生は教え子の苅谷夏子さん(東大大学院教授の苅谷剛彦氏は夫で、「教えることの復権」(ちくま新書)を3人で出版されている)に付き添われて前日にホテルに入った。夕食をご一緒させていただいたのだが、生ビールを飲みながら大村先生が語られたお話しは本当にほのぼのとして愉快なものだった。当日の講演について一つだけ私の感想をあげて終わりにする。先生は車椅子に乗られたままで講演をされた。その時97才である。私は、その聴衆へ向けた第一声を控え室のスピーカーで聞いた。瞬間、ひっくり返りそうになった。大村先生の写真集で見た30代か40代頃と思われる先生の顔がすぐ頭に浮かんだ。スピーカーから流れる声は、その年齢の人のものとしか思えない緊張感と力強さであったのである。言葉の一つ一つがびんびんと相手に伝わっていく迫力に満ちている。まさしく、その時、大村先生は生徒たちに話しかける大村はま先生であった。私はあらためて「百年に一度の教師」という言葉を思い出した。
(大村先生は今年4月17日朝逝去された。謹んでご冥福を祈るとともに、楽しいひとときをご一緒いただいたことを心から感謝せずにはいられない。)
今年、大会(正式には第8回読書コミュニティフォーラム全国大会)は8月19日(金)20日(土)の2日間、福島県文化センターで開催される。「いのちの授業」の金森俊朗氏、作家の柳田邦男氏、筑前琵琶の上原まり氏、詩人の長田弘氏、今泉正顕氏らが講演や演奏、鼎談をくり広げる一方で、分科会では各地の実践者による発表が行われる。大会の詳細や申込用紙の請求は、kaneko@junshin.ac.jpまで。興味のわいた方、何かを始めてみたいと思われる方、一度ご参加されることをお勧めする。それだけの価値はあると思う。
もう一つのライフワーク
自分の好きなことを書こうとすると際限がない。最後に、読書以外の教師としてのライフワークについてちょっとだけふれておきたい。私は社会科の教師である。社会科の授業で、「人間」を追求するという特別な授業を時折組み込んでいる。

岐阜県から駆けつけてくれた船戸医師の授業
この取り組みについては、何回か取り上げていただいているので詳細は割愛するが、早い時期から注目して下さっていたのがCALを運営されている本間勇人氏である。
本間氏が「発表しては」と声をかけてくれたおかげで、私の取り組みは「人間社会学」というたいそうなタイトルでまとめることが出来たのである。この取り組みを展開していく上でも、さまざまな良き人々との出会いがあった。
中でも麻布学園中学高校で人間学アカデミーを運営されている山内先生。人間学アカデミーは、小浜逸郎氏や橋爪大三郎氏など現在の日本の最高レベルとも言える論者たちが次々に講義をバトンタッチしていく市民講座である。一つの学校を舞台としてこういった試みに挑戦できるという実例を目の当たりにすることが出来た。しかも、はじめて参加したその日に、小浜さんや佐藤さんら主要スタッフの打ち上げにも参加させていただいた。つくづく個人としての「人間社会学」など小さなものだと思うと同時に、やりたいことはやっていいのだと妙に勇気づけられた。昨年度から土曜日の午後が必ず本校の校内見学日となった関係で、残念ながらほとんど講座には顔を出せなくなってしまった。また、いずれはと思っている。
順心女子学園中学校 HP
1年まえ組 中等部情報
|